甲板に出るとシャンクスがいて、マルコさんはすぐに頭を下げてお礼を言っていた。びっくりして動けないあたしを見て、頭を下げるマルコさんを見て、シャンクスはいつもみたく笑っていた。よかったなと一言だけマルコさんに言うと、マルコさんは頭を下げたままゆっくり頷いた。

宴だ宴だとエースが騒ぐから、なんとこの朝っぱらからみんなで飲むことになった。何がそんなにめでたいんだか…とか思いつつ、すごくむず痒い。嬉しいんだけど恥ずかしい。隣にいるマルコさんを見上げたら、目を細めて笑われてしまった。

よかったな。ほんとに、帰って来てよかった。




















「二番隊隊長火拳のエース!歌いまーす!」

「おォいいぞ!やれやれ!」

「バーカやめろよ下手くそ!耳が腐らァ!」

「ぎゃはははは!そいつァ言えてるぜ!」


昼、13時を過ぎた頃。クルーはまだまだ騒いでいてエースなんかさっきからずっとうるさい。船首の辺りでずっと歌っている。甲板にはナースも親父も出てきていて、笑い声が絶えることがなかった。 ただひとつ残念なのは、ここにシャンクスがいないことくらい。宴をするからとエースもあたしも必死に引き留めたけどおれも海賊で船長だ、他の船には居られねェと行ってしまったのである。シャンクスには本当に、本当にお世話になった。何度お礼を言っても足りないくらいだ。いつかまた会えることがあれば、何かしらお礼がしたいと思う。緩む顔を片手で押さえながらお酒のグラスに口をつけた。瞬間、バシンッと背中を叩かれてブフッと吹き出してしまった。


「ようなまえ、飲んでるか!」

「今全部吹き出したわ…!」

「悪ィ悪ィ」


振り返ればそこには楽しそうに笑うサッチがいた。あたしは今船首の近くの樽に座っていて甲板全体が見渡せる位置にいる。さっきまでサッチはナースのところにいたように見えたけど、いつこっちに来たんだろ。サッチはあたしの隣に座ると、やっぱりニッと笑った。


「どうよ。楽しんでる?」

「うん、楽しい」

「そっか」

「サッチも楽しそうだね」

「つうか嬉しいんだ。お前らがくっついてくれて」

「え」


思いもよらなかった台詞にサッチをガン見する。サッチは組んだ足に頬杖をついて、優しい顔をしてこっちを見ていた。突然照れ臭くなって、恥ずかしさが込み上げてくる。そうだそうだそうだった、サッチはずっと応援してくれてたんだった。あたしがマルコさんを好きだって気付いたのもサッチの一言からだったんだよね。だからサッチがいなかったら、マルコさんのことを好きになってなかったかも知れない。相思相愛ってすごいことなんだなあってなんとなく思った。


「マルコの傍にいなくていいのかよ、おォ?」

「恥ずかしいじゃん」

「何がだよ。みんなの前で抱き締められちゃってよ」

「わ、忘れてよ!」

「おまけに一晩同じベッドで過ごしちまってよう…そう言えばお前、刺青胸にいれたんだな」

「あ、そっか。サッチ達には言ってなかったね」


自分の胸を押さえて歯を見せて笑った。今朝の覗き見で知ったんだろう。…そう言えばサッチ、海に落ちてなかったっけ。大丈夫なのか。サッチの大きな手があたしの頭をわしゃわしゃ撫で回す。髪がぐしゃぐしゃになったけど嫌ではなかった。


「今までも勿論そうだけどよ、なんかこれでほんと、家族って感じだな」

「えへへ、うん」

「よろしくな妹」

「よろしくお兄ちゃん」

「さて妹よ」

「なんだねお兄ちゃん」

「あっち」

「あっち?」


あっち、とサッチが指した方に首を向ける。そこには親父と、親父を囲むように座る隊長達がいる。因みにマルコさんも一緒だ。あっちがどうかしたのだろうか。


「マルコんとこ行きな。あいつ、珍しく酔っ払ってるみてェだぜ」

「はぁ?マルコさんが?」


サッチの言葉にあたしは目を丸くした。マルコさんがお酒を飲むところは何度も見たけど、マルコさんが酔ってるところなんか見たことがなかったのだ。それにマルコさんってお酒強いし。…親父に勧められて断れなかったのかな。ちょっと心配かも。樽からひょいっと飛び下りる。サッチがぱっと右手を上げた。その大きなてのひらに拳を叩き付ける。ああ、サッチだ。あたしの背中を押してくれる。あたしの優しい兄ちゃんだ。


「行ってくる」

「おう。甘えて来い」

「ばーか」


さて、愛しのダーリン今行くよ。なんちって。

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