あたしが仲間になるから今夜は歓迎パーティーを開いてくれるらしい。こんなちびっこ(中身は大人だけどな!)にパーティーだなんていい人達だなあ。海賊の人って思いっ切りお酒を飲んでるイメージがある。そんで骨のついた肉をむしゃむしゃ食べてる、そんな感じ。お腹空いて来たし楽しみだなあ、ってトリップしてんのに呑気なこって。あたしの胃袋ちゃん、君は正直者だね。お腹を撫でてこっそり溜め息を吐き出した。

日が暮れる頃には甲板は人で溢れていた。エースもいるし親父もいるしあのバナナさんもいる。みんなジョッキを手に笑っていた。あたしはオレンジジュースが入っているプラスチック製のマグカップを両手で持っている。畜生コノヤローバカヤロー。そんなに子供扱いするな。


「新しい仲間に乾杯!」

「なまえに乾杯だァ!」

「ほら飲めなまえ!でも飲み過ぎたらおねしょするぞ!」

「しないよばか!」


そうかそうか!と頭を撫でられた。あたしは今身体が縮んでいるからエースの膝に座っている。なんでこいつはこうもあたしに構うんだろう。心から嫌、ではないんだけど、エースって顔がイイから恥ずかしいっていうか…慣れるまでの辛抱だよね。まあ慣れる前に元に戻れたら一番いいんだけど。オレンジジュースをごくごく飲む。久し振りに飲んだそれは味が薄い。たぶん子供向けに薄めてあるんだろうけど嬉しくない。今はみんなお酒が入ってハイテンションだから後でコックさんにまともなのをお願いしよう。あたしの前に並ぶお子様ランチを睨みつけた。ドーム型のチキンライス、ハンバーグの上には花の形の目玉焼き、林檎たっぷりのサラダ。畜生むかつく、可愛い。あたし子供じゃないけど可愛い。流石に子供用のモノはなかったらしく、普通サイズのフォークを掴む。一口サイズに切って食べる。う、旨い。レストランで食べるハンバーグみたいだ。


「旨いか?」

「うまいです」

「そうか、そりゃよかった」

「…ん?」

「はは、ついてんぞ」


聞き慣れない声にハンバーグをもぐもぐしながら顔を上げる。すると茶髪リーゼントのお兄さんがあたしと同じ目線にいた。椅子に座って顔を下げているみたいだった。口の端についていたのか親指で取ってくれた。恥ずかしい。…誰だろう。エースを見上げたらまた頭をぽんぽん撫でられた。


「こいつはサッチ。四番隊隊長兼コックだ」

「よろしくななまえ」

「は、い。よろしくおねがいします」

「…すげェ。礼儀正しい」

「おれの妹だからな!」

「だれがだよ」


あたしがいつあんたの妹になったのさ。てゆうかあたしは二十なんだってば。サッチさんの差し出された右手を握り締める。大きな手だったから難しかったけどサッチさんはニッと笑ってくれた。隊長兼コックってことは、このお子様ランチを作ってくれたのはサッチさんなのかな。見た目いかついのに可愛いことするんだな。すごく美味しいし。人を外見で判断するのってよくないって実感した。チキンライスを口に運んでサッチさんに笑い返す。


「マルコも来いよ」

「おれはいい」

「照れんなって!」

「そんなんじゃねェやい」


サッチさんが腕を引いて連れて来たのはさっきのバナナさんだった。てゆうかバナナさん、マルコっていうんだ。顔に似合わず可愛い名前。…あれ?マルコって聞いたことあるぞ。なんだったっけ。確か、えっと、あー、そうそう!


「あたしをたすけてくれたひと!」

「…おれのことかい?」

「あの、ありがとうございました!」

「気にすんない。にしてもお前ほんとに礼儀正しいな」


偉い偉いとサッチさんに頭を撫でられた。マルコさんはびっくりしたように目を丸くしている。どいつもこいつも、あたしが二十だと何度言えば解るんだろう。お礼くらい言える。そこまで考えてあたしは周りを見渡した。…この人達って海賊なんだった。そりゃ礼儀とかそういうのは…ナイ、よね。失礼だけども。チキンライスを口に掻っ込む。するとチキンライスが喉ではない変なところに転がった。


「げほっごぶっげぶ!」

「おい?詰まったのか!?」

「エース!背中叩け!」

「よし解った!」

「んぐッ!」

「馬鹿野郎!思い切り殴る奴があるか!」


ひ、ひどい…!咳込む幼女の背中をグーで殴った!サッチさんに抱き上げられてエースの膝から離れた。近くにあったコップを口に押し付けられる。望む分より多く流れ込んできて幾らか零したけど楽にはなった。涙目でふうふう呼吸を繰り返す。あーびっくりした。ナイスだサッチさん。サッチさんはあたしを抱き抱えたままエースをガミガミ叱っていた。注意しろ!とか優しく扱え!とか。エースは両手を合わせてぺこぺこ頭を下げてくる。でもむかついたから無視してやった。そっぽ向いてコップの中身を口に含む。そしたらエースが目を丸くした。ん?なに?


「…サッチそれ、中身…」

「ん?中身は…」


あれ、なんか身体が熱くなってきたかも?頭がくらくらするしなにこれ。持っていたコップを落とす。床にぶつかる前にマルコさんが素早く拾い上げた。コップの中身に鼻を近付けて顔をしかめる。


「…酒だぞい」

「やべェ間違えた!」

「サッチイイイイ!」

「真っ赤になってんぞい…」

「水だ!水飲ませろ!」

「なまえしっかりしろ!」


なんだ、あたしが飲んだのお酒だったのか。でも可笑しいな、これくらいで酔ったりしないんだけど。あァあたし今幼女だったっけ。そこまで考えてあたしは意識をぶっ飛ばした。

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