シャンクスの言葉通り、船はすぐに島を出た。赤髪海賊団のクルーはシャンクスから話を聞いていたのかいつの間にかみんな船に戻ってきていて、あたしは心から感謝した。こんな小娘の為にここまでしてくれるなんて本当に有り難い。船は夜も休まず進み続けた。起きていたって何の役にも立たないしシャンクスからもいいから眠ってろと言われたけど、こんな時にあたしが眠るのは失礼だと思ったから意地でも起きていた。因みに後からシャンクスから聞いたけど、どうやら昨日のうちにエースが島に買い出しに来ていたらしい。なんでも酒屋の旦那が面白おかしく話してたんだとか。金髪と鼻ピアスの話がやっと理解出来た。てゆうか、そんなに近くにいるのか。エースひとりってことはストライカーに乗ってきたのかな?エースのストライカーか、乗ってみたいな。前はマルコさんに危ないって言われて────。

あたしは頭を乱暴に振った。駄目だ駄目だ駄目だ。考えるな。暗くなるな。今は、親父に会うことだけ。モビーに帰ることだけ考えればいい。泣きそうになるのを必死で堪えた。泣いちゃいけない。シャンクスの船では泣くのはタブーなんだから。

船は休まず進み続けた。太陽が顔を出した時も真上に昇った時も空がオレンジ色になって星が出てきても…つまり、丸々一日半進み続けた。シャンクス達も旅の途中だろうに本当に申し訳ない。いつかきっちりお礼をしなきゃ。展望台でうとうとしかけた時だった。シャンクスに双眼鏡を渡されて、寝惚け眼のまま覗き込む。微睡みかけた頭が一気に覚醒した。あのクジラみたいな船首は、あの髭を生やしたマークの帆は。


「ほら、見えてきたぞ」





















「まさかいちにちでつくとはおもわなかった…」

「連絡してたからな。鈍行してくれてたのかもな」

「シャンクスってすごいね」

「ははは、ありがとな」


三日間の家出もこれで終わりか。シャンクスに抱っこされたまま、隣についたモビーを見つめる。帰りたくないって思ってたのか嘘みたい。間近でモビーを見た瞬間言い様の無い感動が込み上げてきた。あーやっぱり、ここがあたしの家なんだなあ。しみじみ思ってシャンクスの腕にしがみつく。甲板にはベンさんやヤソップさん、ルウさんといった隊長クラスの方々が並んでいた。きっとモビーにも白ひげの隊長が並んでるはずだ。敵船の船長を迎え入れるんだから隊長がいないと締まらない。…てゆうかシャンクスって、敵だったっけ?なんか変なの。


「そろそろ行くが、心の準備はいいか?」

「あ、あのねシャンクス」

「なんだ?」

「あたし、おやじだけにあいたい。ほかのひとにはみつかりたくないの」

「…エースにもか?」

「エースも…だめ。あたしをみたらぜったいさわいじゃうから」

「それが駄目なのか?」

「…マルコさんには、みつかりたくないの」


自分でもびっくりするくらい弱々しい声だった。絞り出すような心地で呟いて俯く。それ以上シャンクスは何も言わず、あたしをマントで隠すように抱き直してくれた。

一先ず今は親父に会おう。その後のことはその時考えればいい。シャンクスの服をを握り締めた。シャンクスが歩き出す。床がギシギシと軋むのが分かる。夜だし真っ黒いマントの中にいるしで何も見えないけど過ぎるくらい十分に緊張してしまっていた。な、なんで緊張するの。ただ家に帰るだけじゃん。息を殺して身体を動かさないように注意する。あたしは石だ、石になれあたし。目を固く閉じたあたしの耳に、シャンクスの生き生きとした声が届いた。


「ようエース!」

「!?」


ちょっ…な、ばっ、馬鹿なのこの人!?なんで今声をかけるんだよ!見えないけど多分今前にエースがいるんだ。だってシャンクス足止めてるし。も、い、いいから早く親父のところに行ってよお願いだから…!


「マルコの姿が見えないな、どうしたんだ?風邪か?」


────身体が跳ねてしまわないように、必死に堪えた。信じられない。シャンクスはわざとなんだろうか。でも、あたしは疑問点に気付いた。シャンクスの口振りからして今この場にマルコさんはいない。それって、変だ。敵船の船長を迎え入れる時に隊長がいないと締まらないって言ってたのはマルコさんのくせに、隊長である自分がいないなんて。


「…知らねェ。マルコなんか、おれが知ったことかよ」

「なんだ、珍しいな。喧嘩でもしたのか?」

「そんなんじゃねェ。あんたが気にするようなことじゃねェさ」


どこかぶっきらぼうに、どこか元気のないエースの声。どうしたんだろう。眠たいのかな。マルコさんと、何かあったのかな。今あたしが出ていけば、笑ってくれるかな。でも、駄目だ。今は駄目。ごめんねエース。


「赤髪」

「お、サッチか」

「マルコなら空中散歩中だ。色々あってね、ここ数日夜は一心不乱に飛び回ってやがるのさ」

「そうなのか」

「親父に用事だろ?船長室にいるぜ」

「ありがとう」


サッチの声だ。マルコさん、やっぱりいないのか。うん。そっちの方が都合がいい。絶対そう。うん。再び歩き出したシャンクスにしっかりしがみつく。大丈夫。あたしは泣かない。泣いたって別に、何かが変わる訳じゃないんだもん。

甲板から離れてしばらく歩いた後、シャンクスの足が止まった。どうやら船長室に着いたみたいである。やっと親父に会える。怒られるかな。勝手にいなくなったりしたんだ、怒られたって仕方ない。ゲンコツの一発は覚悟しよう。…いや待てよ、今のこの幼女の状態で親父にゲンコツなんかされたら脳味噌飛び出ちゃう気がする。…ヒィ、恐ろしい。全力で謝ろう。


「白ひげ、おれだ。赤髪のシャンクスだ。…失礼するぞ」


キィ、とドアが開く音がした後に酒の匂いが鼻孔をくすぐった。ああ、親父の匂いだ。
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