マルコから殴られることはあっても殴ったのは初めてだった。奴を殴った右手が痛んで…だとかそんな感傷に浸るガラじゃねェ。一発じゃ足りねェ、まだまだ殴ってやる。そう思った右手がマルコを殴ることはなかった。見てるこっちが罪悪感を感じるくらい、辛そうな顔をしていた。なんだそれ。なまえがいなくなったのはお前の所為じゃねェか。それにお前はなまえがいなくなった方がよかったんだろ。なのになんでそんな顔するんだよ。意味分かんねェよ。無性に悔しくなった。部下から島が近いと聞いて自分からストライカーで買い出しを進んで受けた。海を走りながら強く歯噛みする。なまえがこの海から消えちまったなんて考えたくなかった。着いた島では祭りがあっていてどいつもこいつも浮わついていた。買い出しの帰りに金髪と鼻ピアスの男にぶつかって絡まれたから、テキトーにぶん殴った。ああもう、どうだっていい。




















刺青を入れた時のなまえの嬉しそうな顔をまだ覚えてる。イタイイタイイタイと始終騒いでいたけれどヤメテだとかイヤだとかは一言も言わなかった。半ベソかきながら眠っている顔の、幸せそうだったこと。私が刺青を入れた時はどうだったかしらと考えて、なまえと変わらないことを思い出した。身体に船長のしるしを刻むことで私達は家族になれたのだから。嬉しいに決まってる。幸せに決まってる。それなのに、想う男にあんなことを言われて、なまえはどんな気持ちだったのか。私には分からない。あの子の受けたモノの大きさは計り知れない。静かになってしまった部屋がほんとうに寂しい。今日何度目か分からない涙が、はらはらとこぼれた。





















なまえは、まだ見付からないの?そりゃあ、なまえは自分の国に帰ったんだから見付からなくて当たり前さ。…本当に帰ったのかな。いきなり現れたような奴だ。いきなり消えたっておかしくねェ。…つまらないなァ。同感。なまえの特訓はもう出来ないのか。罰ゲームって騒ぐのも見れないんだ。あいつにとっちゃ好都合かもな。身体が痣だらけにならずに済むし。でもつまらない。マルコも…ずっと死んでる。…言えてら。アレは死んでる。イゾウ、おれさ、マルコが120パーセント悪いとは思えないよ。おれだってそうさ。マルコが悪いのは100パーセントだ。ほお、残りの20は?なまえ。みんなに心配かけてさ、帰ってきたら罰ゲームだね。はは…そうだな。帰ってきたらな。…そう言えばさ、島が近いんだってさ。エースが買い出しに行ったらしいけど。停まるつもりはねェのか?んー…親父も、そんな気にはなれないってことかもね。…つまらねェなァ。





















マルコの顔の腫れが引いてきた。それでも、なまえは帰らない。マルコはいつも無表情でいたけど元気が無いのは誰が見ても明らかだった。部屋に籠ったり食が細くなったりしねェのは隊長としての威厳だと思う。きついような素振りは一切見せない。強がりか意地か、いやどっちもか。おれがとやかく言えたことじゃねェがあんなマルコを見るのはイヤだ。面白くねェ。話し掛けても上の空。…最初こそぶん殴ってやろうと思ったが、今のマルコを殴る気はしねェ。殴れねェよ。今一番辛いのは、きっとマルコだ。なんて、ナースに言えばきっとキャーキャー文句を言われるんだろうな。マルコ隊長が酷いのよ!って感じで。そりゃな、分かる。マルコは酷い。しちゃいけねェことをした。それはマルコ自身すっげェ反省してんだ。

…だから早く帰って来い、可愛い妹ちゃんよ。
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