「ヒャははハはハハはッハハハはもォやめへひゃはっ!」

「おれから逃げ切れたらやめてやるよ」

「あひゃっひあハハはァアァ鬼イイイイイ!」





「…ハルタ、あれァ?」

「あぁイゾウ。あれは罰ゲームだよ。サッチから逃げ切れるまで擽り地獄」

「…サッチがなまえにセクハラしてるようにしか見えねェけど」

「違う違う。擽ってるだけ」

「いいのかお兄ちゃん、妹虐められてるぜ?」

「スキンシップみたいなもんだろ。それにこれはなまえが捕まった罰だからな、なまえを想って止めてやらねェんだ」

「成る程ねェ」

「サッチのあの引くぐらいニヤついた顔には腹が立つけどな!」

「いい笑顔で指先燃やすのやめなよエース」





「ヒャはははははハはハハッうアっ!むっ胸揉むなァ!」


サッチが火達磨になる二秒前の出来事だった。




















『なまえ強化計画』を始めて早三週間、身体がトレーニングに慣れてきた。今では腕立て伏せを休まず百回出来る。最初は筋肉痛で腕を上げられなかったりしてヒイヒイ言っていたけど、筋肉痛になると筋肉が付いてるんだなあと実感出来るから好きになった。筋肉痛が好きってなんか変態っぽいけど。筋トレだけじゃなくて時々はチャンバラみたいなこともした。受けてくれるのは勿論ハルタさん。コーチをして貰ってる最中にかなり仲良くなった。ハルタさんはいい兄貴分なんだけど少しSっ気があって怖い。でも可愛いからいいや、なんちって。

丸焦げになって動かなくなったサッチをちらりと見た後イゾウさんを見る。なんでも、今日から本格的なトレーニングに入るらしい。イゾウさんはゆらりと着物の袖を揺らした、かと思えば次の瞬間には手には拳銃が握られていた。


「お前の武器だ」

「…武器」

「剣や槍は重くて振り回せない、ナイフだと接近戦になるから危険だ。弓は技術が必要で簡単にゃあ覚えられねェ。だから銃に決めた」


渡された銃は小さかったけど、ずっしりと重かった。ドラマとか映画とかでなら見たことはある。でも本物を見るのも触るのも、初めてだ。だって前の日常ならこんなもの必要なかったから。ここではこんなものが、必要になる。知らず知らず顔が強張った。これ、重たい。怖い。あたし、これを使って、ひとをころす、のかな。そんなの怖い。怖すぎる。


「勘違いすんなよ」

「…へ」

「お前はおれ達みてェに戦う為の稽古をしてるんじゃない、敵から逃げて生き延びる為の稽古をしてるんだ」


イゾウさんの言葉が、胸にすとんっと落ちる。開きかけていた穴にかちりとはまる。確かにあたしはみんなみたいに戦えない。だから、生き延びる為の稽古。そう思うとなんだか少しだけ楽になった。元々自分に戦う力や誰かを守れる力があるとは思ってない。あたしがみんなを守ろうなんて言ったらみんなに失礼だ。強くなりたいと思ったのは、みんなの足手纏いは嫌だから。何も出来ないままは嫌だからだった。銃をぎゅっと握り締める。無機質で冷たいそれは、なんだか不思議な感触だった。


「基本的にはおれらが守るからさ。気張んなよ」

「はいっ!」

「なまえにゃおれの射撃術のイロハを全部叩き込む」

「お願いしますっ!」

「じゃあまず、エースの臍を狙って」

「はいっ!…はい?」


言われた意味が理解出来ずイゾウさんを見上げる。イゾウさんはなあにと言わんばかりに首をかしげて見せた。イゾウさん今、エースの臍狙えって言った?ぱっと顔を上げるとニコニコして仁王立ちするエースがいた。マジックで書いたのか臍が赤いラインで囲まれている。…な、なんだこの状況。


「的を作ってなくてな。エースは撃っても自然系だから平気だし遠慮なくやってくれ」

「え、え…でも…」

「好きに撃ってみな」

「なまえー!ガンガン撃ってこーい!兄ちゃん全部受け止めてやるぞー!」


これから撃たれるというのに何を笑っていられるのか。恐ろしい男め。ニコニコするイゾウさんとハルタ、エースにたじろぎながら銃を両手で構えた。エースが大丈夫って言うんなら大丈夫なんだよね。たぶん。でも、あたしモデルガンしか触ったことないんだけど普通に撃ってもいいのかな。トリガーに指を引っ掛けて腕を伸ばす。エースの臍辺りを狙ってみる。トリガーを、一気に引いた。

ガァアンッ、と凄まじい銃声と同時に凄まじい衝撃が腕を伝ってきた。反動を受け止められず両腕が跳ね上がる。肘がじんじん痺れて痛い。思わず銃を落としてしまった。手もじんじんする。うわ、何これ。痛い。イゾウさんがハハッと笑った。


「びっくりした?」

「…な、何ですかこれ…」

「誰だって最初はこんなもんさ。反動に対応しきれねェ」

「すごい痺れてる…」

「反動に耐え切れず撃つ時に銃口が上を向く。だから弾道が逸れる。見てみな」


イゾウさんに言われて顔を上げてみると、エースの胸がボウッと炎化していた。臍からだいぶ離れたところに当たったらしい。手を擦り合わせながら口を「へ」の字に押し曲げた。思っていたより銃を扱うってのは難しい。痺れが引いてきた手で銃を拾った。


「反動に耐えれるようになるには筋肉をつけて銃に慣れるしか無い」

「筋肉…」

「罰ゲームなんてこたァしないけど、おれはスパルタ教育だから覚悟しな」

「…胸揉まれないならなんでもいいです」


未だぴくりとも動かないサッチを見つめる。エースが恐ろしいくらいにっこり笑うとイゾウさんとハルタさんは目を丸くして、その後同時にプッと吹き出した。

手の中にある銃を、強く握り締めた。
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