「うおっ超もちもち!」
「手ェちっちゃいな〜」
「おれにも抱かせろよ!」
「駄目だ!なまえはやらん!」
むさ苦しい。なにがって、全部。もう一回言うけど、ぜーんぶ。
やらん!ってお父さんかよ。エースに抱っこされたままむさ苦しい男に囲まれてほっぺたをつつかれるわ手を摘まれるは、欝陶しい。あんたらあたしをパンダか何かと勘違いしてるんじゃないのか。唯一名前を知ってるエースは伸びて来る毛深い手から守ろうと腕を高々上げるからあたしは無限高い高い状態だ。ちょっと怖い。視線を下げたらむさ苦しい男ばっかりなのもちょっと怖い。ナースさんリジィ親父助けて!手足をじたばたさせたらエースが慌てたようにあたしを胸に抱いた。…この人服着てくれないかな、素肌が当たってヤなんだよ。
「どうしたなまえ。小便か?」
「ちがう」
「じゃあおっぱいか?おれおっぱい出ないんだ」
「おい、誰かナース連れて来いよ」
「ちがう!おろして!」
くそ、どこまでも子供扱いしやがって(そりゃ見た目子供だけど)誰が野郎のおっぱい欲しがるか馬鹿。しかもナース呼んでもおっぱい出ないだろ。たぶん。エースはブーブー文句垂れながらあたしを床へ降ろした。ここへ来て初めて歩いたけど頭が重たい。ゆらゆらする。あたしって何歳くらいなんだろう。ナースさんに訊いてみなきゃ。あたしはエースやむさ苦しい男達を避けて出口へ向かった。振り返るとみんなあたしを見てだらし無い顔をしていた。
「うわ、よちよちしてんのがペンギンみてェ!可愛い!」
「カメラカメラカメラ!」
「あ、なまえ何処行くんだ!」
「…たんけん」
「それならおれも」
「ひとりでいく」
「そうか?うーん…海に落ちるなよ?」
この齢で探検なんか行きたくないけど今は幼女なんだしいいや。こう言えばエースも納得するだろうし。だいじょうぶ、と頷いたらエースから頭を撫でられた。手を振る男の人に手を振り返したらデレデレの顔になった。この人達ほんとに海賊なのかな。
部屋を出ると果てしない廊下が広がった。うわあ広っ。ここが船の上なんて信じられない。だけど見上げれば空があるし時々波の音もする。間違いなく船にいるんだ。ちょっとわくわくしてきた。とりあえず歩こう。船首を目指してみよう。あたしは覚束ない足取りでよちよち歩き出した。
「ん、あった!」
歩き始めて10分、やっと船首が見えてきた。歩幅は狭いしスピードは遅いし、幼女って大変だ。ばたばた走って船首まで近寄る。そしてその場にぺたんと座った。この船広すぎる。それだけ人が乗ってるってことなんだよね。あんなむさ苦しい人達がいっぱい…いやいや待て待て。スーパーセクシーボインナースもいるんだ。大丈夫だ。何が大丈夫が解らないけど。両手をついて立ち上がる。海が見たくなったんだけど、縁に身長が届かない。ジャンプしても届かない。幼女って大変だ、ほんとに。何度か頑張ってジャンプしていたら着地を失敗して仰向けに倒れた。するとそこには人がいて、あたしを覗き込んでいた。
「…何やってんだよい」
「…うみがみたいけど、とどかなくて、ころびました」
金髪の…バナナみたいな髪型をした人だった(仮にバナナさんと名付けよう)バナナさんはしばらくじっとあたしを見つめて、ゆっくりあたしに手を伸ばした。そのままあたしを抱き上げて縁に近付く。あたしの視界を、どこまでも青い海が塞いだ。
「わ、あ」
「海を見るのは初めてかい」
「いえ、でもすごいです」
「そうかい」
「ありがとうございます」
そう言ったらバナナさんはぶっと吹き出した。あれ?あたしなんか変なこと言った?
「礼儀正しいんだな」
「…あたしはたちですから」
「? へェ」
あ、こいつ絶対解ってない。それからくどくど説明したけどバナナさんは生返事しか返さなかった。畜生ここの男共はみんなアホだ。親父以外。