四日目。身体を動かせなかった。昨夜入れた刺青がじりじりと痛んで動く気にすらならなかった。なんだろ、剃刀でぎゅっぎゅって押さえ付けられるような痛みだった。最中はそこまで痛いとは思わなかったのにな。今は結構痛い。昨日買い物済ませといてよかった。あー痛い…。みんなこんな痛い思いしてたんだ。すごいなあ。痛くて痛くて食欲も無い。ちょっと吐き気がする。苦しむあたしをリジィはくすくす笑っていた。コノヤロー。ベッドに寝転んで痛みに涙を浮かべた。お昼は寝ておこう。痛む、だけど誇らしい刺青を、そっと押さえた。
















夜。今日はみんなで甲板に出てご飯食べた。サッチ曰く美味しい肉が見つかったらしく、今夜はバーベキューをしたのだ。親父も甲板に出て楽しそうにお酒を飲んでいる。それを眺めながらあたしはコーラを飲んだ。

明日までアルコールは駄目だとリジィにきつく言われた。血の巡りが良くなると刺青から血が出て来ることがあるらしい。痛みは明日には消えるらしいから我慢しよう。長袖のシャツの袖をちょいっと引っ張った。


「なまえ、具合は大丈夫なのか?」

「うん。心配かけてごめんねお兄ちゃん」

「全くだぜ。看病するっつってもリジィが部屋に入れてくれねェしよ」

「あはは、ごめんってば」

「おれが添い寝すればすぐ治ったのに」

「酔ってんの?」


よく見れば顔が赤いエースの頬をぺちんっと叩く。エースはへにゃりと笑ってその場に崩れ落ちた。あたしの膝に頭を乗せてへらへらしている。こいつ、完璧に酔ってやがる。因みに刺青を入れたことはナースと親父以外には教えていない。親父もどこに入れたかは知らない。いつか驚かせてやろうと思ったのだ。だから昼間は具合が悪くて部屋にいた、ということにしてある。昼間に比べたら痛みはだいぶ引いた。このまま上手く、綺麗に入れられていればいいけど。

ふと顔を上げる。エースの隣で清酒を飲んでいたイゾウさんと目があった。イゾウさんは色っぽく首をかしげて見せる。男の人にしとくにゃ勿体無い。ここまで着物が似合う男の人って初めて見た。イゾウさんをじーっと見つめて、生まれた疑問。


「どうした?」

「イゾウさんってどこに刺青入れてるんですか?」


どこにも見当たらないということは、着物に隠れているはず。この桜吹雪が目に入らねェか、みたいな感じで肩に入れてるのかな。ここさ!みたいな感じで肩を出してくれないかなと変な期待を胸にイゾウさんを見つめる。イゾウさんはぱちぱちと瞬いた後、色っぽく、艶っぽく紅い唇を歪めた。


「知りたいなら、今夜おれの部屋においで」

「…え」

「全部見せてあげるから」

「………っけ、結構です!」


遠慮しなくていいのにとイゾウさんは笑った。さっきまでのフェロモンは感じられない。心臓がばくばくしてる。夜に、部屋で、全部見せてあげるって…し、信じられない何この人…!男の人の色気だとは思えない。しかも上手くはぐらかされたし。すぐ隣にいたサッチの後ろにササッと隠れる。サッチはわざとらしく溜め息を吐き出した。


「何口説いてんだよイゾウ」

「マルコくらいのおっさんがいいならおれもいいかと」

「あ、じゃあおれもいい?」

「イゾウさんもサッチも駄目に決まってるでしょ!」

「なんでだよ」

「あたしはマルコさんがす」


────心臓が止まるかと思った。気付かなかった。サッチの隣の、マルコさんの存在に。あれ、マルコさん、居たっけ?口が『す』の形で固まる。マルコさんと目があっ、た。

マルコさんは少し驚いたように目を丸くしていたけど、すぐに口角をクッと吊り上げた。自分の顔がじわじわと熱くなっていくのが分かる。やばい、これは、まずい。絶対聞かれてた。あたしが何を言おうとしてたのか、あの人は絶対分かってる。マルコさんはジョッキを傾けてお酒を一口嚥下した。その間も、目はあったままだった。


「…知ってるよい」

「え」

「お前がおれを、好きで好きで堪らねェことくらい」

「……!」


声が出ない。出せなかった。恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたいという意味を嫌という程に理解した。な、なん、この人は、畜生むかつく。イゾウさんがけらけら笑ってサッチがヒューヒュー囃し立てる。かなりむかついたけど反撃出来ないくらい恥ずかしくて、あたしは俯いた。ぐっすり眠るエースの頬をつねる。この場で眠ってしまおうかと本気で考えた。

マルコさんの余裕っぷりに年の差を感じさせられる。むかつく。だけど心臓が暴れまわるくらい動悸が激しいんだから、あたしは本当にこの人が好きなんだなあと改めて思った。
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