マルコさんにフラれた翌日、予想以上に気分は良かった。昨日はマルコさんとふたりで笑いながら帰ったからサッチやエース達が上手くいったんだと思ったらしい、みんなから「おめでとうコノヤロー!」と言われた。その後マルコさんがニヤニヤしながらめでてェことなんざねェよい。なァなまえと言うからあたしもあっさり答えた。


「うん、フラれた」

「ハアアアアアア!?」

「おっま…おれの超絶可愛い妹をフるっておっま…!」

「可哀想になまえ、おれが慰めてやる!」

「やだリーゼントその冗談クソつまんない。てゆうかあたし、諦めてないし」

「は?」

「ね、マルコさん。絶対振り向かせてみせるから!」

「へいへい、頑張れよい」

「…?」

「???」



みんな訳が分からないみたいな顔をしていたけど、なまえがそれでいいなら頑張れって言ってくれた。うん。頑張ります。

船を出すのは四日後。時間はある。自分を磨こう?取り敢えず、身嗜みを整えなきゃ。服も靴もリジィのを借りてばっかりだしいつもすっぴんだし。化粧はともかく洋服はしっかりしなきゃ。しかしここで問題発生。あたしは無一文である。エースに借りようかと考えて、幼女時代にたくさん服を買って貰ったことを思い出した。エースにばっかり頼るのはよくない。じゃあどうしよう。考えて考えて浮かんだのは親父の顔。あたしは船長室へダッシュした。


「肩叩きだァ?」

「うん。一時間肩叩きするから、お小遣いください」

「グララララ!嬉しいが、おめェみてェなチビがおれの肩を叩けんのか?」

「ゔッ」


言われてみれば。座った親父の肩にすら届かないのにどうやって叩くのか。くそう、いい方法だと思ったのに。未だ可笑しそうに笑う親父を恨めしげに睨み付けた。


「金ならやるぜ?」

「…でも」

「親子じゃねェか」

「…いつか絶対返すから!ありがとうパパ!」

「…くすぐってェな」


パパ呼びはお気に召したらしい。親父はニッと笑ってくれた。親父が指を指した先を見れば、お金や宝石で盛り上がった袋がゴロゴロ。…海賊ってすごい。エースに台を作って貰って、今度親父の肩を叩いてあげよう。そう誓ってお金を取った。

今日は親父の定期健診の日らしく、ナースはみんな船から降りることが出来ない。まあたまにはひとりで行動してもいいかな。エースをつれて洋服を見に行ったらアレがいいコレがいいって趣味じゃないの選ばれちゃいそうだし。サッチだったらまたおっぱいが無いだのナンだの言われそう。マルコさんは…駄目だろ。うん。ショルダーバッグにお金を突っ込む。ベルトに白ひげマーク入りのバンダナを結び付けて船を降りようとした時だった。


「なまえ、ひとりで何処行くんだ?」

「ん?」


振り返れば、そこにはステファンを抱っこしたイゾウさんがいた。ステファンはお尻ごとを尻尾を振りながらじたばたしている。手を伸ばすとぴょんっとジャンプして胸に飛び込んできた。ううう、可愛いやつめ!


「ショッピングですよ」

「へぇ。おれもついて行っていい?」

「へ?いいですけど、買うの洋服とかですよ?男の人は楽しくないと思いますけど」

「いいよ、荷物持ちしてあげる。ステファンの散歩も行きたいしな」

「うーん…」

「分かってくれ、暇なんだ」


苦笑いを浮かべるイゾウさんについプッと吹き出した。荷物持ちを買って出てくれるんだ、断るのも申し訳ない。仕方ないですねェなんて言いながら、イゾウさんとステファンと船を降りた。

島は賑やかだった。人も活き活きしてる。若い女の人を頼りに今時の服がある店を訊いて、辿り着いた店はあたし好みの洋服がたくさんあった。久々のショッピング気分にテンションがハイになる。イゾウさんはステファンを抱いたまま、一緒に店に入った。


「あ、これ可愛い」

「なまえ、これは?」

「それもいい!ごめんなさい、それ持ってて下さい」

「ん。あと、そこのグレーのも似合うと思うぜ」

「え、ほんとですか」

「なまえは派手な色より落ち着いた色が肌にあってる」

「…なんかイゾウさんが言うと説得力ある。じゃあそれも買います」

「…なまえ、これは」

「あ、駄目です」

「…お前の趣味なら口出ししねェがよ」

「はい?」

「スカート、嫌い?」


イゾウさんがシフォン素材のスカートを持ったまま軽く首をかしげた。イゾウさんの肩に乗っかったステファンも首をかしげている。あたしは目を丸くした。


「さっきからパンツばっかりじゃねェか。バルーンもチノパンもサルエルもおかしかないけど、こういうシフォンのスカートも女の子らしくて可愛いのに」

「イゾウさんよく知ってますね。スカート、別に嫌いじゃないですよ」

「じゃあなんで?」

「だって動きにくいじゃないですか」

「…ん?」

「そりゃ女の子らしくなりたいけど、でも、あたしも海賊だから」


幸い今は特別危険な目に遇わずに済んでいるけど、またいつ敵襲にあうか分からない。そんな時にヒラヒラしてた服を着てたらきっと動きにくいだろう。洋服の所為で命を落としマシタ、なんて笑い話にもならない。だから洋服はパンツばっかりでいい。パンツでも充分女の子らしさは出せる。…たぶん。


「女らしくだのナンだの言う前に海賊らしくならなきゃ。女らしさばっかり求めて海賊らしさが無くなったら意味ないでしょ?」

「……」

「ただ単に『女』になりたかったら、船を降りて他で男探してます」

「…お前、いい女だねェ」

「あはは、惚れました?」

「惚れていいの?」

「…ゴメンナサイ」


イゾウさんが、それはそれは色気たっぷりに言うもんだから妙に恥ずかしくなって視線を逸らした。イゾウさんはくすくす笑っている。…色男って罪。

その後下着を見に行こうとしたらイゾウさんも行くと言い出したから、丁重にお断りしておいた。
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