一先ずマルコさんとふたりになることには成功した。だけど、これからどうすればいいんだろう。

あれからマルコさんに連れられて海辺の小さなバーに入った。人は少なくテラスには誰もいなかったから、あたし達はテラスに出て乾杯した。マルコさんは強いウィスキー、あたしは着物なんだしお酒も清酒を…だったら、かっこよかったんだけど。無難にレモンサワーを頼んだ。グラスをかちんとぶつけた時にマルコさんが微笑んで、やっぱり息が詰まった。テラスを貸切状態だからなのだろうか。世界にふたりだけのような気さえした。


「昼に島に降りなかったのは、おめかしする為だったのかい」

「まあ…、はい」

「ワノ国の服だろい。よく似合ってる」


わのくに、っていうのはよく分からなかったけど、似合ってるって言われたのはすごく嬉しかった。照れ隠しにサワーを一口飲んだ。さっきまで飲んでいたはずなのにマルコさんは酔っている様子もなくて、ぐいぐいとウィスキーを減らしていく。あたしも今日はなかなか酔えない。意識がはっきり冴えてる。あああああ、ちょっと前まではふたりでいることに何の抵抗も無かったのに。


「そう言えば、刺青入れる場所は決めたのかい?」

「へ、あ、いえ、まだ」

「入れるなら見えるところに入れろい。白ひげの刺青は入れてるだけで絡まれにくくなる」

「へぇ…」

「ま、下手すりゃ一般人も絡んでくれなくなるがな」

「え!」

「それだけ親父って人間はすげェのさ」


あ。優しい顔してる。エースやサッチもそうだけど、マルコさんは親父の話をする時にすごく穏やかな表情をする。それを見る度にマルコさんはほんとに親父が好きなんだなあって思う。マルコさんの胸の刺青を見つめる。白ひげ海賊団のしるし。親父の息子である証。みんなの誇り。あたしも早く入れたいなあ。見えるところ、か。胸や背中に入れてもあたしは女だからシャツのボタンを全部開けたりだとか半裸で過ごすだとかは出来ない。やっぱり手が一番いいかな?

マルコさんを見る。マルコさんは微笑んだままだった。


「…親父、愛されてますね」


そう言うとマルコさんは一瞬目を丸くして、ニッと歯を見せて笑った。


「なんでか分かるかい?」

「え?なんでって…」

「親父がおれらみィんなを、愛してくれるからさ」


からん、グラスの中の氷が揺れた。マルコさんから目が離せなくなった。


「親父だから、海賊王にしたいと思う。親父が海賊王になることがおれの夢だ」


そう。この人はいつだって真っ直ぐだ。強い意志を持ってる。いい歳した大人なのに夢だの愛だの自由だのと言葉を並べていく。だけど、綺麗だ。言葉に濁りが無い。嘘っぽさも無い。マルコさんの言葉はいつも強い。それでいて優しい。欲しい言葉を欲しいだけくれる。不思議なくらい何度も救われてきた声。思い返せば然り気無く側にいてくれたのは、いつもマルコさんだった。

────ああ、そっか。
ドコが、とかココが、とか。そんなのじゃない。

マルコさんだから惹かれたんだと、唐突に思った。


「なまえ?酔ったかよい?」


あたしがずっと黙り込んでいるからだろう、マルコさんが声を掛けてきた。我に帰って顔を上げる。マルコさんがグラスに口をつけながらこっちを見ていた。気怠そうに半分伏せられた目にあたしが映ってる。耳の先まで赤くなったあたしがいる。ほんとに酔ってるみたい。ほんとに酔ってるなら、よかったのかな。


「おい?」

「酔ってない、です」

「顔赤ェよい」

「酔ってないです、から」

「…お前本当に大丈」

「すきです」


自分でびっくりするくらい震えた声だった。だけどマルコさんにはしっかり届いてたみたいで、マルコさんの目が徐々に開かれていく。全身が心臓になったみたいだ。どくりどくりと脈を打つのが分かる。あつい、溶けていきそう、恥ずかしい、消えてしまいたい、すき、だ。あたしってマルコさんが、好きなんだ。


「…あたし、マルコさんが好きです」


もう一度言葉にすると、ほんとうに好きになったような気がした。マルコさんは動かない。反応してくれない。

お互いの手にあるグラスの中の氷がぱきん、と音を立てて、割れた。
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