マルコさんは優しい。よく気にかけてくれるしいつもさりげなく助けてくれるし、本当にいい人だ。部下からの信頼も厚いしナース達からの人気もある。実際戦っているところを見たことは無いけどすごく強いらしいし筋肉だってすごい。マルコさんはすごい。すごい、けど。でもそれって別に。


(すき、では、なくね?)


だってあの人とあたしじゃ年齢差が激し過ぎる。それにおっさんだよ?派手な頭に派手なシャツ着てるしさ、すきにはならないでしょうよ。マルコさんがあたしを気にかけてくれるのはあたしが妹みたいな存在だからで。うん。頭の中でぐちゃぐちゃと考え込みながらひたすら歩く。目的地は甲板だ。そこにマルコさんがいるから、会いに行く。会いに行く、というのは語弊が生まれる。稽古をしていると聞いたからただ見に行くのだ。それ以上の感情は無い。無い、よね。うん。無い。足元を睨み付けたまま歩く。頭がパンクしそうだった。

甲板に近付くと騒がしくなってきて、歩くスピードを下げた。クルーの声がするのは分かる。でもジョズさんやマルコさんの声は分からない。今どういう状況なんだろう?邪魔にならないように気を付けながら甲板を覗き込んだ。


「…うわ、あ」


一言で表せば、男臭い。でも、なんだか、すごかった。

素振りをしている人や腕立て伏せ、腹筋、背筋をしている人。走り込みをする人、組み手をしている人。みんなで声を出し合いながら、自分を鍛えている。汗や血が流れても止まらず自分を高めていく。自分とは縁の無いその光景にただただ言葉を失った。引いた訳じゃない。純粋にすごいと思った。

離れたところから悲鳴があがる。我に帰って見れば、そこには倒れたクルーとそれを見下ろすマルコさんがいた。


(…こわい)


普段の優しい雰囲気は一切無い、恐ろしいくらい無表情。倒れたクルーは少し怯えるように顔をしかめる。マルコさんは見下ろした後、クッと喉を鳴らした。顔を歪めて笑う様は、いつもと同じマルコさんだった。


「詰めが甘い。もっと基礎を鍛えろい」

「は、はい!」


マルコさんが差し出した右手を掴みクルーは立ち上がる。マルコさんに深々と一礼すると筋トレをしているグループの方へ走って行った。そう言えば、マルコさんって隊長なんだ。隊長が直々に稽古って、偉いなあ。マルコさんの目尻から汗が一筋流れて顎に伝う。暑いのかシャツを脱いでいて逞しい肩や胸が大公開されていた。と言っても、みーんな上半身裸なんだけど。こりゃサッチが面白くないって言う筈だわ。

呆然としながら眺めていたら、不意にマルコさんと目が合った。マルコさんがこっちを向いたのだ。まるであたしがここにいるのを知っていたかのような動きだった。まさか、気付かれてた?マルコさんなら気配を感じ取って…とか、そういうの出来そうだ。マルコさんは片手を上げて軽く笑う。どう反応したらいいか分からなくて軽く頭を下げたらちょいちょいと手招きされた。え、行くの?行っていいの?…行ってみよう。クルーの邪魔にならないよう注意しながらマルコさんに近付いて行った。


「よう、どうした」

「…サッチからマルコさんが稽古つけてるって聞いて見に来たんです」

「そうかい。面白くもねェと思うがねい」

「いや、すごいです。みんなすごいですね」

「筋トレかい?あれくらい出来ねェと」

「でも、あたしには出来ないから、すごいって思います」


腕立て伏せも走り込みも組み手もあたしには出来ない。出来たとしてもすぐに弱音を吐いてしまう。でも、彼らはそんなことはしない。だから、すごいと思うのだ。思ったことを思ったままに口にするとマルコさんは僅かに目を見張った。それから、くすくすと笑う。その顔から、目が離せなくなる。あぁ嘘でしょこんなの。なんで、なんで。なんで、マルコさんがこんなに、かっこよく見えてしまうの。


「お前は素直で可愛いな」

「……。は?」

「女は素直なのがいいよい」

「いや、待っ…え?」

「…意外と初なんだな」


顔が赤ェよいとマルコさんはあたしの頭を叩いた。そ、そんな筈は無い。顔が赤いなんてそんな漫画みたいなことがあって堪るか。そう思ったけど顔にかあっと熱が集中するのが分かってあたしは何も言えなかった。なんでこの人はこのタイミングでそんなことを言うの。馬鹿じゃないの。

マルコさんは優しい。よく気にかけてくれるしいつもさりげなく助けてくれるし、本当にいい人だ。部下からの信頼も厚いしナース達からの人気もある。実際戦っているところを見たことは無いけどすごく強いらしいし筋肉だってすごい。マルコさんはすごい。

どうしよう。これは本当に、どうしよう。嘘でしょこんなの。ああでも、でも。


(マルコさんが、好き、なのかも)


溜め息を吐き出す。マルコさんが不思議そうに首を傾けていたけど、何の反応も返せなかった。
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