うちの両親は共働きと言うやつで、家にいることは少なかった。それでも休みが重なれば家族で出掛けたりしていたし食事もなるべく家族揃って摂るようにしていた。お母さんは真面目な人でお父さんはのんびりとした人だった。兄ちゃんはお母さんに似てしっかり者だったけどあたしはお父さんに似てどこか抜けてるところがあった。何処にでもいる普通の家庭だ。特に裕福でもないけど貧しくもない、温かい家族だった。

だけどあたしが大学に通い始めた頃、家庭環境に歪みが生まれた。大学入学に続き悪化する不況の為にお金に問題が出てきたのだ。兄ちゃんも大学に通っていたから授業料はふたり分、値上がりする野菜、ガソリン代。お母さんはいつもピリピリしていた気がする。弱気なお父さんはお母さんに何か言うでもなく黙って見守っていた。それは、それで間違っていなかったんだと思う。お母さんは仕事ばかりするようになって家にいる時間が少なくなった。それが家族の為だと分かっていても寂しかった。

だから、だろうか。


「どうしてよ!」


あたしが二十を過ぎた頃、お父さんが浮気をしていたことが発覚した。お母さんは仕事帰りにたまたま夫が知らない女性と仲良く歩いているのを目撃したらしい。詰め寄って聞き出せば、相手はお母さんと同じ年代の飲み屋の女性だとお父さんは話した。お母さんはそれを聞くなり、強く叫んだ。今思えばお父さんは寂しかったんだと思う。あんなに仲が良かったのにお母さんが仕事ばかりしていたから悲しかったんだと思う。それでも浮気は許されることじゃない。あたしは兄ちゃんの背中に隠れるようにして、リビングで言い合う両親を眺めていた。

お母さんが泣き出して、あたしは息が詰まった。あの真面目なお母さんがあんなに取り乱して泣くところなんか、初めて見た。


「終わりね」

「違う、待ってくれ」

「いいえ、終わりよ」

「待て、頼む」



お母さんがリビングから出ていく。お父さんはその場にがくりと崩れ落ちた。お母さんが玄関を出るのが分かって兄ちゃんが慌てて追い駆けた。あたしは震える足を動かしてお父さんに近寄った。お父さんは覇気の無い声で、吐息混じりに吐き出した。


「愛している、んだ」


意識が暗転する。そこから先の記憶は無い。多分、あたしは全部が嫌になって眠ってしまったんだと思う。ぼろぼろぼろぼろ、泣きながら。

なんでこうなってしまったんだろう。あたしが大学に行きたいなんて言わなければ良かったのかな。あんなに仲良しだったのに。幸せ、だったのに。昔はみんなで遊びに行ってたのに、どうして。こんなことなら大学に行きたいなんて言わなければ良かった。お父さんの気持ちに気付いてあげられたら良かった。もう、どうして。昔のままでいられたらいいのに。昔のままで、昔の、昔に、戻りたい。このまま大人になりたくない。昔に戻りたい。もどりたい。


次に目が覚めた時あたしは、海賊船にいて、子どもになっていた。
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