スイカ割りをしたりマルコさんに海に投げられたりビーチバレーをしたりマルコさんに海に投げられたり仕返しに海水鉄砲でマルコさんを打ってみたり、返り討ちにあってまた海に投げられたり。日が暮れる頃にはズタボロだった(あたしだけが)右手は特に痛くないからいいもののマルコさんは絶対あたしの身体が幼女だということを忘れてる。下手したら死んでるからねあたし。にしても、あたしを投げる時のマルコさんの顔と言ったらそれはそれは楽しそうだったなあ…あの人きっとSなんだろうな。怖い怖い。
夜、シャワーを浴びた後に親父のところへ行った。海で遊んだからか身体が怠い。親父の膝でぐったりしていたらそっと頭を撫でられた。
「大丈夫か?」
「うん。ねえ、おやじはたのしかった?」
「我が子が馬鹿みてェに楽しんでんのが見れりゃあおれは充分だ」
そう言って親父はあの独特な声で笑った。その顔は本当に楽しそうで嬉しそう。親父は家族想いだなあ。
今日はみんな子どもみたいにはしゃいでた。エースは勿論だしサッチは散々ナースをナンパした後に素潜りして魚を獲っていた(夜ご飯に美味しく頂いた)因みにナースにはみんなからフラれたらしい。ジョズさんやビスタ、イゾウさんにマルコさんは白熱したビーチバレーをしていたしハルタさんはひとりで何個もスイカを割っていた。みんな楽しそうで、海に来てほんとによかったと思った。
「手はどうだ?」
「だいじょうぶ」
「おめェは楽しかったか?」
「もっちろん!」
楽しくない訳がない。みんなで馬鹿騒ぎして、本当に楽しかった。ひとつ文句を言うなら、身体が二十に戻ればもっと楽しめただろうなあと思う。元の身体だったらビーチバレーやスイカ割りが満足に出来ただろうに。早く戻りたいなあ。子どもの身体も悪くないけどやっぱり不便だし。
「…なまえには、親ァいんのか?」
「おや?うん、いるよ。にいちゃんもいる」
「そうか。幸せだなァ」
「…しあわせ」
幸せ。そう口にすると、何か違和感を覚えた。幸せ。しあわせ。幸せなはずなのに、なんだか違う気がした。あれ?なんだろう、この感じ。もやもやする。霧がかかっていてよく見えない。そんな、不快感。兄ちゃんの顔を思い出してみた。すぐ殴るしキレるけど優しい奴だった。お父さんとお母さんの顔を思い出してみようとしたら、出来なかった。あれ?なんで?なんで、お父さんとお母さんが思い出せないの?
「おい、寝るのか?」
「…うん、ねる」
「後でエースを呼んでやるから寝ろ」
そうだ。きっと眠たい所為で思い出せないんだ。重たくなる瞼をごしごしこすった。親父の膝の上で丸くなる。もやもやしたままの胸を押さえて目を閉じた。
「どうしてよ!」
声がした。女の人の、悲痛な叫びだった。海で遊んだからだろうか、水中にいるような不思議な感覚が身体を包む。なに、だあれ。今の声は誰なの?世界は真っ暗で何も見えない。
「だから、悪かったって」
「悪かったと思うなら初めからしないはずでしょう!」
「じゃあどう言えばいいんだよ」
「どう言ったって変わらないでしょう!どうして分からないの!」
気まずそうな、少し震えた男の声。言い合ってるみたい。それを理解すると頭に鈍痛が走った。いたい、きもちわるい。女が叫ぶ。男が謝る。女がまた叫ぶ。男は強気に言い返した。そしたら女は、泣き出した。
「…終わりね」
「違う、待ってくれ」
「いいえ、終わりよ」
頭が痛い。これ以上聞きたくない。
突然、意識が浮上した。目を見開く。呼吸は乱れていてじっとり汗をかいていた。いくら夏島の気候にいるからと言ってもこの寝汗は尋常じゃない。未だに痛む頭を押さえて辺りを見渡すと、すぐ隣にエースがいた。仰向けで大口開けて寝ている。じゃあここはエースの部屋か。眠ったのは確か親父の膝だったから、親父が運んでくれたかエースが迎えにきたか。…どっちでもいいや。エースの腕にぴったりくっついて目を閉じる。暑かったしまだまだ眠れそうになかったけど、さっきの夢に比べたらだいぶマシだった。
さっきのは、なんだったんだろう。