寝苦しくて目が覚めた。身体が痛い。重たい。あたしはどうしたんだろう。そこまで考えて、ぱっと思い出した。そう言えば酔っ払いに蹴られたんだっけ。結構リンチまがいなことをされて…あ。そう言えばステファンは?ステファンも蹴られてたはずだ。瞼を持ち上げる。

すると映ったのは、何故か半泣きのエース。


「っおい!なまえが目ェ覚ましたぞ!」

「マジか!?」

「なまえっ大丈夫か!?大丈夫じゃねェよな、こんなボロボロになって…!」

「静かに!」


エースが叫んだ後ろからサッチが飛び出した。エースがぼろぼろ泣き出したらすぐ傍にいたリジィが一喝する。リジィの柔らかい手があたしの額を押さえた。冷たくていい匂いがして、心地好い。てゆうか、あれ?リジィの手が冷たいってゆうか、あたしが熱くね?あたし熱出てる?リジィの手が離れていく。リジィが柔らかく微笑んだ。


「少し熱があるけど具合はどうですか?痛いところは?」

「ぜんぶいたい…」

「全身打撲に右手骨折、痛くない方が不思議です」

「…みぎておれてるの?」

「はい。でも綺麗に折れてるから治りは速いですよ」


うわ、生まれて初めて骨折した。実感ない。右手を動かそうと少し力を入れたら痛みが走った。身体中痛いし右手動かないし、お風呂が大変そうだわ。なんか足も重たいし…待てよ。これ、動かない訳じゃない。上から圧迫されてるだけだ。見たくても布団が邪魔で見えない。左手を使って身体を起こそうとしたらリジィが手伝ってくれた。完璧に身体を起こす前に、解った。白くてふわふわな身体、親父そっくりのひげ。丸まって眠ってるのはあの、ステファンだった。あたしは声が出なかった。だってこんな近くにステファンがいたことはない。いつも喧嘩ばっかり、てゆうか喧嘩売られてばっかりなのに。呆然とステファンを眺めていたらエースがはははっと笑った。


「ステファンが親父の傍以外で寝るのは初めてなんだぜ」

「…そうなの?」

「身を呈して守ってくれたなまえに心を開いたのさ」

「…そういえばたすけにきてくれたんだよね、エース。ありがとう」

「いや、何も言うな。申し訳なくて死にそうだ」

「実はななまえ、おれとエースとマルコでつけてたんだ。お前らが仲良くやれるかってよ」

「…ん?」


…話が見えない。いつの間にかサッチとエースがベッドの下で正座していた。その隣でリジィが腕を組んで怒った顔をしている。ん?ん?なにこれ?状況が読めないぞ?


「お前が飲み物を買った後人混みに流されて見失ったんだよ。そしたらステファンの声がして」

「ステファンが鳴くのは仲間に何かあった時だからな。慌てて向かったらなまえがリンチされてら」

「安心しろなまえ!ぶちのめしてやったからな!嫁入り前のなまえをボロボロにしやがって、あれくらいじゃ足りねェくらいだ」

「おやお兄様、妹ちゃんは嫁に出すのかよ?」

「いや出さない。それかおれより強い奴じゃねェと認めねェ」

「とにかく。隊長達がなまえを見失わなければなまえは怪我をせず済んだ…ですね?」

「…返す言葉もねェ」

「すまねェなまえ!」


…なるほど。だからふたりは責任感じてるって訳か。結果的にあたしもステファンも無事なんだし、別に気にしてない。大丈夫だよ、と言おうとして固まった。目を覚ましたステファンがあたしをじっと見つめていたからである。ま、まさか、また噛まれる…?だけどあたしの予想とは反してステファンは噛み付きも引っ掻きもしなかった。それどころかそのまま飛び付いてきて顔をベロベロ舐められた。う、うおぉぉう…!くすぐったいしなんかすごい感覚…!


「すっ、すてふぁ、お、おちついっ」

「ステファン、すっかりお前に懐いたみたいだな」

「ステファっ、けがはっ?」

「大丈夫、元気ですよ」

「そっか…よかったね」

「お、目ェ覚ましたのかい」


くすぐったいけど、それ以上に嬉しい。サッチが言うように懐いてくれたのかな。恐る恐るステファンの頭を撫でたら部屋のドアが開いて、マルコさんが入ってきた。手にお盆を持っている。湯気がのぼってるように見えるけど、何が載ってるんだろ。マルコさんをじっと見つめて、ふと気付いた。あれ?これって、エースとサッチにもあったような…。エースとサッチを見つめる。それからまたマルコさんを見つめる。エースが不思議そうに首をかしげた。


「どうした?」

「かお、どうしたの?」

「あー、これか」


エースが顔を押さえる。顔と言うより頬。エースもサッチもマルコさんも、頬がうっすら青紫に腫れているのだ。エースとサッチとマルコさんはハハハと苦笑した。


「親父に殴られたんだよ」

「おやじに!?」

「お前らがついていながらなんてザマだ!ってな」

「親父の言う通りだ。お前は気にするこたァねェ」

「まさかこの歳になって親父に殴られるとはねい…」


全くだ、と三人は笑った。笑うと痛むのかイテテと漏らしている。それを見ていたらなんだか可笑しくなって笑ってしまった。不謹慎なのは解ってるんだけど、嬉しい。この三人もリジィもステファンも親父もあたしのこと心配してくれてるんだ。身体も右手も痛いけど気にならない。気になるって言ったら…あ。


「あのおとこのひとたち、いきてるよね…?」

「それなら大丈夫だ」

「最終的には土下座させたからな」


フンと自慢気に鼻を鳴らすエースとサッチについ吹き出した。この人達ってほんとに海賊なのかな。優しいし面白いし、ノリがいいヤンキーと変わらない。ステファンを見たらベロンと舐められた。


「ほら、スープだ。たくさん喰って早く治せ」

「なまえ、兄ちゃんがあーんしてやるよ」

「い、いやだよはずかしい」

「じゃあおれが」

「ふざけんなリーゼント!おめェになまえを任せられるか!」

「んだとォ!てめェ世界中のリーゼントに謝りやがれこの半裸野郎!」

「なまえ、はい」

「あーん」

「ああああああ!リジィお前それおれの役…!」

「へ、ザマーミロ」

「お前ら黙れよい」
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