「やーん、可愛い〜っ!」

「次はこっちよ!」

「おれはこれが好きだな!」

「エース隊長ったら意外。ちゃんと可愛いもの選んできたのね」

「そうだなあ…なまえ、おれはこれが好きだな」

「も、もういや…!」

「あ!待ちなさいなまえ!」

「マルコ隊長捕まえて!」

「はいよっと」

「おにいいいいいいいっ!」


夜、みんなお酒が入って気分よく酔っていた頃。エースが島で買ったあたしの洋服を広げた。それを見たナースさん達のテンションがハイになり、ファッションショーが始まったのである。勿論主役はあたしだけ。それからはまた地獄だった。なんで日に二度も地獄を味わわなきゃいけないんだ。マルコさんに捕まったあたしは再びリジィの手の中へ。無理矢理服を剥がされてまた新たに服を着せられた。次は白い着ぐるみ式の洋服だった。フードには長くてくたっとした耳が付いている。つまりうさぎさんである。なんでうさぎなんだよエースの馬鹿。


「それはパジャマにしたら?手触りも気持ちいいし」

「もうなんでもいい…」

「駄目よ!次はこっち!」

「マルコさんたすけてー!」

「おれのことバナナ頭って言った奴は助けねェ」

「え!?」


そ、そりゃ確かに言ったけど、そんなみみっちいこと気にしてたのこの人!?ほんとに一体幾つだよ!ナースさんにボタンを外されてまた下着姿になる。ぎゃんぎゃん喚いていたらエースがお腹を抱えて笑い出した。


「ぶはははは!マルコがバナナ頭か!なまえも言うようになったじゃねェか!」

「マルコ!おれはパイナップルだと思うぞ!」

「だっはっはっはっ!」

「ひー…腹痛ェ…!」

「…死にてェらしいな…」


マルコさんの身体がゴウッと青い炎に包まれる。笑い転げていた人達の顔が一瞬にして凍り付いた。どうやらマルコさんの頭については決して触れてはいけないらしい。覚えておこう。青い火の粉が散って野太い悲鳴があがる。おお、と眺めていたらリジィに真っ赤なワンピースを頭から被せられた。後何着くらいあるんだろう。両手を出して鏡を覗く。意外とシンプルな赤のワンピースはちょっと気に入った。リジィからぽんぽんと頭を撫でられる。


「可愛いですよ」

「…ありがと」

「あら、髪に何かついてる。動かないで」


リジィがあたしの前でかがんで髪を摘んだ。たぶん糸屑とかがついてたんだろう。言われた通り動かずにいて、あたしは息を詰まらせた。何故なら目の前にリジィの豊満な胸があったからである。た、谷間がくっきり見える。ロリ顔で巨乳って最強だなオイ。女でも目のやり場に困っちゃうよ。気まずくなりながら目を逸らそうとして、あたしは目を丸くした。あれ?リジィの胸のとこ、何か色が…。逸らしかけた目を戻す。リジィの左胸のところに、確かに刺青がいれてあった。無意識のうちにリジィの胸に手を置く。ついまじまじと刺青を見つめた。


「…どうしました?」

「これ、しろひげかいぞくだんのいれずみ?」

「そうですよ」

「ナースもいれてるの?」

「各々好きなところに入れてますよ。見せて貰ったらどうです?」


リジィの左胸にはショッキングピンクで刺青がいれてあった。他のナース達が集まってそれぞれの刺青を見せてくれる。肩にあったりお腹にあったり太ももにいれてたり。色は様々だ。ピンク、紫、黒、銀色もいた。なんでだろう。やたらセクシーに見える気がするのは。まじまじ眺めたりちょんちょんつついたりした(周りの隊員さんがいいなあ…とか、おれもガキになりてェとか言ってるのが聞こえたけど無視)少し黙り込んだ後、リジィを見上げる。


「…いれずみいれるのっていたいの?」

「え?まあ、痛いですけど」

「私はもうしたくないわ…いれてしばらくの間は痛くて動けなかったもの」

「あらそう?私は思ったより、って感じだったわよ」

「感じ方は人それぞれってことね」

「まさかなまえ、刺青をいれたいのですか?」


リジィから真っ直ぐに見つめられてつい目を逸らした。そしたらナース達が笑い出す声がして、あたしは唇を『へ』の字に押し曲げた。


「それは駄目よなまえ、十年…いや、二十年早いわ」

「そうそう、子供が馬鹿なこと言わないの」


め、めっちゃ子供扱いされてる…!言い返したいけど腹が立つのと悔しいのとで声が出ない。しかもちょっと泣きそうだった。だってだってさ!あたしだって刺青いれたいのにさ畜生!

この船に乗ってるので刺青をいれてないのはきっとあたしだけなんだ。それを今はっきり感じてしまった。ナース達の言う通りなのは解ってる。あたしみたいなガキがするには早すぎることくらい理解出来る。だけどあたしだって親父の子なんだ。その証が欲しい。それだけなのに、そんなに笑わなくたって。


「あんまりいじめてやんなよい」


ぽん、とふいに頭にあったかい重さ。振り返ればマルコさんがいた。無表情のままあたしを見下ろしてる。膝を折ってかがむとポケットから白いバンダナを取り出してあたしの頭に巻き付けた。突然のことに頭がついていかない。助けを求めるようにリジィを見たら、リジィはまあと頬を緩めた。


「素敵。マルコ隊長、これどうしたのです?」

「島で作らせた。白ひげのマークをいれてくれっつったら青くなってタダでしてくれたよい」

「ふふふ、悪いお方」

「?」


話してる意味が解らず首をかしげた。このバンダナが何?鏡を見て、あたしは目を見張った。

真っ白なバンダナの真ん中に青くて大きい、みんながいれてる刺青と同じ刺繍がしてあった。マルコさん、あたしが刺青のこと気にしてるの知ってるから、わざわざ作ってくれたの?未だかがんだままのマルコさんを見る。マルコさんは口だけでニッと笑った。うわ、なんだこの男前。嬉しくてちょっと泣きそう。


「よろしく、兄妹」


そう言って笑うマルコさんの後ろに気絶した隊員(エースとサッチを含む)の山があって、この人ってすごいと思った。
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