「マルコさん、エース、ジョズさん、サッチ、ビスタ、ブラメンコさん、ラクヨウさん、ナミュールさん、ブレンハイムさん、クリエルさん、キングデューさん、ハルタさん、アトモスさん、スピード・ジルさん、フォッサさん、イゾウさん…」


なんとか隊長さんの名前は覚えたけど顔を忘れてしまった人が多い。みんな身長が高いことは解るんだけど…。あ、着物の人がいたっけ。名前は…駄目だ。顔はぼんやり浮かぶけど名前と一致しない。大変だ、これ。紙にメモっとこうかな。昨日聞いただけだもん、すぐ忘れちゃうよね。メモしよメモしよ。そう思ったら扉が開いた。因みにあたしは今エースの部屋にいる。てゆうかエースの部屋があたしの部屋みたいなものなんだけど。入って来たのはこの部屋の主・エースだった。


「なまえ、出掛けるぞ」

「でかけるって…」


周りは海なのにどうやって?言い終わる前に抱き上げられた。このパターンも慣れてきたけどさ、真面目な話何処行くの。エースの胸をぺちぺち叩く。エースはニコニコしていた。


「どこにいくの?」

「近くに島があるんだがそこに船は停まらねェ。だからおれとなまえだけで島に行って、なまえの服を買ってやるんだ」

「え、あたしのふく?」

「お前も女の子だしいつも同じ格好は嫌だろ?」

「エース…!」


馬鹿で半裸で大喰らいの単純脳細胞ヤローだと思ってたけどエースって、エースってちゃんとあたしのこと考えてくれてたんだ…!見直したよエース!確かに毎日毎日同じワンピースは嫌だと思ってたんだ。なんかズボンが恋しくなる。靴は無いから裸足だし可愛いサンダルが欲しい。…今はキッズサイズになるけど。それから櫛とかパジャマとかも欲しいなあ!あ、でもあたしお金無いし…きっとエースが出してくれるんだろうな。なんか申し訳ない。…あれ?でもどうやってあたしとエースだけで行くんだろ。小舟とかあるのかな。


「どうやっていくの?」

「勿論ストライカーさ」

「すとらいかー?」

「見りゃ解る」

「待ちなエース」


背後からの声にエースが振り返る。声で解ってはいたけどやっぱりマルコさんだった。マルコさんは腕を組んで溜め息をひとつ。あれ、なんだか呆れてる?あたし何かしたかな。それともエース?


「親父に聞いたよい。島になまえのモン買いに行くんだって?」

「あぁ。それがなんだよ、金ならあるぜ」

「おめェまさか、ストライカーで行くつもりじゃねェだろうな」

「何言ってんだ?じゃなけりゃナンで行くんだよ」

「炎出しっ放しのおめェの傍になまえがいるのは危ねェだろい」

「ゔ」

「万が一落としたらどうすんだい?カナヅチじゃ助けらんねェ」

「ゔうっ」


…なんかよく解んないけど、あたしにとって『ストライカー』っていうものは危ないらしい。エースは苦虫を噛み潰したような顔になっていた。ストライカーがナンなのかすごく気になるところだけど危ないのは困る。あたしはエースから身体を反らしてマルコさんに手を伸ばした。エースがびっくりするのとマルコさんがニッと笑うのは同時。


「マルコさーん」

「ほら、危ねェ兄ちゃんとは行きたくねェとさ」

「だっ、大丈夫だ!大体ストライカーじゃなきゃ行く方法がねェだろ!」

「いィや、おれが飛んでく」


ん?なんだって?マルコさん今、なんて言ったの?飛んでく、だと?果てしなく嫌な予感がしたけどあたしは既にマルコさんに捕まってしまっていた。飛んでく。飛んでく?飛ぶってアレか。鳥みたいに飛ぶってか。いやいやマルコさん人間だし。ロボットじゃあるまいし飛ぶ訳…待・て・よ。そう言えばマルコさんって鳥に変身出来たような…。マルコさんはポケットから大きな布を取り出すと袈裟のように巻いて片手で器用に結んだ。布と自分の間にあたしを入れてしっかり固定する。


「そんじゃなまえ、行くとするかねい」

「ど、どうやって」

「安心しろい、絶対落とさねェさ」

「わ!うわ、わっ…!」


言い終わる余韻が消えないうちにマルコさんの身体が青い炎に包まれた。反射的に身体を離そうとしたけどがっちり固定されて動かない。てゆうか、あれ?


「…あつくない」

「おれの炎はエースの炎とは違うからな。飛ぶよい」


すっかり鳥になったマルコさんが翼を大きく広げる。それからゆっくりと浮上した。うわ、わ、なんか、変な感じ。あたしはマルコさんの胸に背中を向けた状態だから辺りがよく見渡せる。なんだろ、なんかスーパーマンになった気分。しゅわっち!と両手を伸ばしたら危ないよいと怒られた。

高度はどんどん上がってく。船の帆くらいまで上がるとマルコさんは真っ直ぐ進み出した。島ってどんなところなんだろう。全く想像出来ない。広くて青い海を見下ろしていたら見覚えのある背中が視界に入った。あの親父のひげを生やしたドクロは、間違いない。エースだ。


「おれも行く!なまえに洋服選んでやるのはおれだ!」

「へいへい、好きにしてくれい」

「もしかしてあれがストライカーですか?」

「おうよい」


エースはサーフィンをするみたいにボード?を操って海を滑っていた。足元がゴウゴウと燃えている。どんな仕組みなんだろ。炎がガソリン代わり的な?てゆうかエースはあれにあたしを乗せる気だったのか…ナイスマルコさん。あんなの火傷じゃ済まない。ほんとに危ない兄ちゃん。背中を睨み付けて、ふと思った。


「…いれずみって、みんないれてますよね?」

「あぁ。エースは背中、おれァ胸に入れてる」

「かっこいいですね。あたしもいれようかな」

「ガキがやめとけよい。刺青を入れんのはすげェ痛いんだぜ」

「ガキじゃない…けどいたいのはいやです」

「ほらな」

「かいぞくってかんじがしていいじゃないですか!」


ムキになって叫ぶ。マルコさんは首をもたげて目線をあたしに向けた。


「お前、海賊にこだわってんだろい」


嘴から零れた言葉に、あたしは目を丸くした。

また、だ。またマルコさんはあたしを見抜く。隠してる弱い部分を見つける。丸々一晩考えて考えて、あたしはやっぱり人は殺せないと思った。この前のエースみたいに容赦なく攻撃なんて出来ない。だからせめて見た目だけでも、と思った。刺青を入れたらほんとの海賊になれるような気がしたんだ。何も言えず黙り込む。するとつむじを嘴でこつこつとつつかれた。


「人を殺せとは言わねェ」

「…え」

「宝を奪えとは言わねェ。刺青を入れろとも言わねェ」

「……」

「それでもなまえは海賊で、おれらの仲間なんだ」

「…マルコさんって」

「ん?」

「むかつきますね」

「そうかいそんなに落とされてェかい」

「え、ひっ、ぎゃああああっああああああああっ!」


マルコさんは突然真下に下降し始めた。ジェットコースターで落ちるような嫌な感覚が背筋を滑る。内臓とか腸とか色々飛び出しそうだった。海にぶつかる、寸前でマルコさんは再び浮上した。近くにいたエースが危ないだのナンだの怒っていたけどマルコさんは知らん顔。この人だけは怒らせたら駄目だと思った。

なんでも見抜いて、その上上手く丸め込まれる。安心させられる。だから、むかつくんですよ。
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