「なまえー!」

「出てこいなまえー!」

「アイスあげるぞー!」


…アイスは欲しいかも。

あたしは今展望台にいる。展望台には樽やら何やら置いてあったから隠れるには丁度よかった。いや、別に隠れる必要はないんだけどね。なんか顔を合わせにくいっていうかね。…あたしが全部悪いんだけどね。

朝、エースはあたしを起こさないようにそっと起きてたんだ。あの場面を見ればあたしが怯えるから。だからマルコさんが見てたのかいなんて言ったんだ。あたしはひとり怯えて助けてくれなかっただのナンだの喚き散らして逃げて、何してるんだろう。あたしは何も解ってなかった。海賊の船に乗るっていうことがどんなことなのか。ここで生きていくっていうことがどんなに険しいのか。あたしは何もかも全部、甘く見ていたんだ。


「…おなかすいた…」


こんな状況なのに呑気な胃袋ちゃんだ。マイペースだね君は。朝から何も食べてないし当然っちゃ当然か。でも、誰にも会えない。だってもし「船を降りろ」って言われたらどうする?何も知らないこの世界でガキが生き残れる可能性は0に近い。あたしはこの白ひげ海賊に頼るしかないのだ。だけどエースには非道いことを言ってしまった。「降りろ」って言われても仕方ないことを言ったんだ。だから会えない。そんな言葉、聞きたくないから。木箱に乗って外を見下ろす。みんなわらわらと動き回ってあたしの名前を呼んでいた。…行くべきかな。でも、怖い。出来る限りはここにいよう。ふと目についたマルコさんの後頭部を見つめた、ら。


「……っ!?」


マルコさんが振り返って、ばっちり目が合った。咄嗟に顔を引っ込めたけど絶対見つかった。なんで?なんであのタイミングでこっちを見たの?気配を感じたとか?甲板から展望台まではかなりの距離がある。気配なんて感じる訳ない。海賊の身体能力というかなんというか、もう有り得ない。なんなの。ああ、隠れなきゃ。すぐにマルコさんが来る。木箱から飛び降りた。


「わあっ!」


すると、展望台に青く光る鳥が舞い込んできた。鳥はあたしの目の前に降り立つ。大きく見えるのはあたしが幼女化してるからだけじゃないだろう。本当に大きい。何処からこんな鳥が。鳥が首をもたげる。身体が陽炎みたいにゆらりと揺らめいた。目を見張る。この鳥、光ってるんじゃない。燃えてるんだ。突然鳥が青い炎に包まれる。驚いて両腕で顔を庇った。すぐに炎は風に流されて消えていく。炎が小さくなるにつれて現れる影。もう、頭がついて行かない。青い炎から現れたのは、人。マルコさんだった。


「よォ」

「…なんで、とり、は」

「さっきの鳥がおれだよい」

「いみわかんない…」


本気で頭が痛む。鳥がマルコさん?ふざけるな、と言いたいところだけど確かに鳥はいなくなってマルコさんが現れた。頭ごなしに嘘だと言えない。言えないけど、普通に考えて可笑しいじゃないか。鳥が人になるなんて。座り込むあたしの隣にマルコさんが座る。大きな手があたしの頭をぽんっと撫でた。いつもと同じ、優しい手だった。


「この世界には悪魔の実と呼ばれる代物がある」

「…え?」

「黙って聞いてろい」


突然話し出したマルコさんを見上げたらまたぽんっと撫で付けられた。


「悪魔の実を食った人間はその実相応の能力を得ることが出来る。種類は色々さ。身体が砂になったりゴムになったりバラバラになっても死なない身体になったり、鳥になったり」

「…とりって、じゃあマルコさん」

「ご名答。おれも実を食ってる。実を食った人間は能力者って呼ばれてる」


マルコさんはあたしを撫でてない方の腕を伸ばした。腕が青い炎に包まれて、羽根に変わる。目の前で行われる出来事が不思議で堪らない。だけど、これでやっと理解出来た。これは全部その悪魔の実とかいうもので手に入れた能力なんだ。そう言えば親父から前に「悪魔の実を食った訳じゃないのか」って訊かれたことあったっけ。子供化する実なんてあるのかな。でも鳥になる実があるならそれくらいあるのかも知れない。マルコさんは腕を元に戻すとあたしに視線をやった。


「だが能力者にはひとつ弱点が出来ちまう。海賊であれば致命的な弱点がねい」

「じゃくてん?」

「泳げなくなっちまうのさ。能力者は海に嫌われて、触れるだけで力を失っちまう」

「へえ…」

「解ったかい?エースもおれも、お前を助けられなかった理由が」

「…え」

「エースも能力者さ。見たろい、奴の身体が炎になるのを」


言われて、思い出す。そう言えばそうだ。エースの拳から炎が飛び出した。あれも悪魔の実の能力だったんだ。…じゃあつまりエースもマルコさんも泳げなくて、だからあたしを助けられなかった、の?マルコさんを見上げる。マルコさんはふうと長く息を吐き出した。


「あの場で能力者じゃなかったのはサッチだけだったからねい。だからサッチは飛び込んだ」

「あ…あたし、エースにあやまらなきゃ…」

「そうしてやってくれい。かなりへこんでるぜ」

「…でも、あたし…」

「ん?」


これで問題が解決、出来たらいいけどそうはいかない。あたしはまだ踏み出せてない。彼ら『海賊』と生きることに覚悟を決められてないのだ。このままエースのところへ行ってあやふやに終わらせるのは嫌だ。あたしが納得いかない。だけど、足が動かない。


「無理すんない」


マルコさんの手が、あたしを引き寄せる。


「見てたんだろい、おれ達が船を沈めるの。それをお前が気負う必要はねェよい」

「……」

「おれ達は海賊だ。人を殺すこともある。だが、絶対に仲間を裏切らねェ」

「…っ…」

「船を降りろなんざ誰も言わん。お前を見捨てたりしねェよい」


マルコさんの胸に顔を押し付ける。そうでもしないと泣きそうだった。なんで、解ったんだろう。なんであたしが一番怯えてることが解ったんだろう。あたしはこの船以外に行くところがない。海賊だろうがなんだろうがここにいるみんなが『家族』なんだ。


「あたし、がんばります」

「…おー、そうかい」

「がんばって、かいぞくします」

「(海賊します?)そうかい、応援するよい」

「おなかすきました」

「じゃあ飯だな」


マルコさんに抱き上げられて展望台から降りる。ぼろ泣きのエースに抱き締められて、あたしはつい吹き出した。
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