「わあああああああっ!」
ざっばーん、と豪快な音と水柱を立ててあたしはお風呂のど真ん中に落下した。もう一度確認しよう。落下した。何故か?エースがあたしをぶん投げたからだ!
美味しい夜ご飯を食べ終わり満足で幸せ気分になっていたら突然エースがあたしをひょいっと抱き上げた。エースの顔を見上げればニコニコニコニコ。この時点で嫌な予感がしたのは言うまでもない。エースはあたしを抱っこしたまま何処かへ歩き出した。どこいくの、そう言いかけた言葉はエースの声と重なった。
「風呂入るぞ!」
「…い、いやだ!むり!」
思いっきり嫌がったのにエースは全く話を聞いてくれず、あたしは無理矢理大浴場へ連れられ無理矢理服を脱がされ無理矢理浴槽に投げられた、という訳である。まる。あんな風に無理矢理服を剥がされる経験は二度とないと願いたいけど、あの一回だけでトラウマになりかねない破壊力があった。だってエースがニコニコしたまま怖くねェよ、兄ちゃんが優しく洗ってやるからなとか言うから怖くて気持ち悪くて!あー今夜は悪夢を見る気がする…。浴槽から顔を出す、つもりがほとんど出なかった。やば、深い!溺れる!ゴボゴボともがいていたら大きな手が首根っこを掴んで引き上げてくれた。
「生きてるかい」
「げふっ…な、なんとか」
「悪ィ悪ィ!深さ考えてなかった」
「おのれエースウウウッ!」
マルコさんに首根っこを掴まれて宙ぶらりんのままエースに吠えた。でもエースはやっぱり笑ってた…てゆうか、てゆうかアアアア!
「ま、まえ!まえかくしてよばかエース!」
「前?こうか?」
「ちがああああう!」
両手で自分の目を隠すエースは全裸である。つまりあたしが隠して欲しいのは目なんかじゃなくてその、あの、そ、それだよ!下の方だよ!そりゃあたしは(外見は)幼女だけど中身は立派に二十なんだからさ!別に男の裸見て頬を赤らめるような可愛い性格はしてないけど!でも目のやり場に困る。果てしなく困る。幸いマルコさんは空気が読める殿方なのでちゃんと腰にタオルを巻いておられた。流石年上の男性は違う。エースはマルコさんを見習うべきだ。マルコさんはあたしを抱き上げたまま浴槽から出ると木で出来た椅子にあたしを座らせた。そしてシャンプーと石鹸とボディータオルを握らせてく。
「さっさと洗っちまえ。ここから出るにはそれしかねェ」
「ですよね…」
「お、待て待てなまえ!兄ちゃんが洗ってやる!」
「ひいいいまえかくしておねがいだからあああああ!」
何もかもが全開で近付いて来るエースに本気で恐怖を感じた。それを見たマルコさんがブッと吹き出している。いや笑うとこじゃないから!エースはあたしの後ろに座ってシャンプーのノズルをプッシュする。手に伸ばした後あたしの頭をわしゃわしゃと掻き回した。うわわわ、もっとソフトに…!痛いのは御免だ。
そう思っていたのもつかの間、意外なことにエースはシャンプーが上手かった。丁度いい力加減が気持ちよい。そう言えばエースってちっちゃい子の扱いに慣れてるような…弟とか妹がいたのかな。今度訊いてみよう。
「流すから目ェ閉じろよー」
「んー」
言われた通りに目を閉じる。温かいお湯が流れていく感じさえ気持ちよい。お風呂っていいなあ。ぼーっとしていたらエースから泡立てられたタオルを渡された。
「背中は洗ってやるから前は自分で洗え」
「うーい」
「返事はハイ」
「はーい」
…あれ?なんかナチュラルに身体洗われてる?あたし二十だよね?エースと同い年だよね?…うん。もういっか。別に悪くないし。泡で身体隠れるし、どうせつるぺただし。エースの大きな手が肩を優しく叩く。どうやら終わったらしい。背中が小さいと洗う範囲が少なくて便利だ。しかも自分でしてないから楽。お湯をかけようとするエースをじっと見つめて口を開いた。
「あたしもせなかあらってあげるよ」
「お!ぜひ頼む!」
「うしろむいてー」
「それじゃなまえ、おれも頼む」
「ええーサッチさんせなかおおきいからやだー」
「おやつ作ってやったろ」
うっ、言い返せない。仕方なくあたしはエースとサッチさんの背中を洗ってあげることにした。女の子からみたら広い背中ってかっこいいとか逞しい!って言われる対象なんだろうけど洗う側からしたら大変極まりない。しかも今は幼女だから力が無いし。明日は筋肉痛になったりして…。ごしごし、ごしごし。洗っていたら気付いた。そう言えばエースってあたしと同い年なんだっけ。いつもいつもエースが年上っぽく感じてしまうのはあたしが幼女化してる所為だと思ってたけど、違うってことを知った。
エースは二十の割には釣り合わないくらいに筋肉がついてる。無駄な肉が無い。サッチさんにしたってそう(サッチさんの年齢は知らないけど)サッチさんの背中を洗っていたらいろんな傷だらけでびっくりした。そこであたしは思い出した。ああ、この人達って海賊だったっけ。
「なまえ、もうちょっと強くしてくれ」
「はーい」
すごいんだなあ、エース達って。