「おう、お帰りなまえ」

「ただいまー」

「遊ぼうぜ!」

「なにして?」

「隠れんぼ。おれが鬼」

「…エースっていくつ?」

「ん?二十だ」


お前同い年じゃねーかアアアと叫びたくなるのを必死で堪えた。ていうかこいつあたしと同い年のくせに妹扱いしてたのかよ。なんかエースってほんとにお兄ちゃんぽいなあって思ってたのに。でもエースに同い年だって言っても笑ってスルーされるだろうからもう何も言わない。何故ならあたしの方がエースより大人だからである。隣にいるマルコさんを見上げたら哀れむような目であたしを見ていた。畜生あたしは不憫なんかじゃない。心の中で頷いていたらエースに頭をぽんっと叩かれた。


「百数えるから隠れてこい」

「ほんとにするの〜?」

「エースから逃げ切れたらサッチにおやつを作るよう頼んでやるよい」

「する!」


マルコさんの悪魔の囁きにあたしは面白いくらい簡単にのった。だっておやつ欲しいじゃん。あのサッチさんのおやつだよ、絶対美味しいに決まってる。まああたしも女の子な訳で甘いものには目がないのさ。エースは嬉しそうに笑って目を伏せるといーち、にーい、さーんと数え始めた。早く隠れなきゃ。そこでピン!ときてマルコさんのズボンを掴む。マルコさんを味方にしたらきっとエースから逃げられるはずだ。マルコさん、と顔を上げたあたしは目を丸くした。マルコさんは口元を押さえてくすくす笑っていたのだ。


「お前、本当に二十かよい」

「へ?」

「おやつに釣られるなんざガキと変わらねェ」

「おやつにねんれいかんけいないです。あたしはいくつになってもおやつたべます!」

「そうかい、じゃあ勝たなきゃいけねェない」

「マルコさんきょうりょくしてくださーい」

「了解」


マルコさんに抱き上げられて太陽が一気に近くなる。眩しさに目を細めながらエースを見たら、エースは丁度三十秒数えたところだった。















あたしin食堂。つまりマルコさんに食堂につれて来られた訳なんだけど。


「ここってぜったいエースきますよ」

「何処行ったって来る。それなら一番来そうなここさえ越えたら大丈夫だよい」

「なるほど!」

「あれ?」


ガチャッとドアを開けて入って来たのはコックのサッチさん。おお!おやつの人!あたしはテーブルに座っていてマルコさんは椅子に座ってコーヒーを飲んでいる。サッチさんは何かの麻袋を腕に掛けてあたしに近寄ると首をかしげた。


「なまえはエースと隠れんぼしてんじゃねェのか?エースがウキウキして捜してたぜ」

「え!いまエースどこらへんですか?」

「もうこっちに来るんじゃねェかな」

「えええマルコさんマルコさんどうしよう!」

「サッチ、その袋開け」

「ん?ほらよ」


サッチさんが麻袋を開く。中身は空っぽみたい。じゃがいもか何か入ってたのかな?中を覗き込んだら突然脇の下に両手を差し込まれた。振り返ると無表情のマルコさんがいる。そのままあたしはひょいっと持ち上げられて麻袋の中にいれられた。


「ちょ、ちょっと!」

「黙ってろい」

「わあっ!」


麻袋が揺れて入口が塞がる。それから壁みたいなものにぶつかった。たぶんマルコさんの背中だ。マルコさんが麻袋を肩に掛けたんだと思う。プレゼントを運ぶサンタクロースみたいな感じで。でんぐり返しの状態になってしまったあたしは目をぐるぐるに回した。なんなのいきなり…!マルコさん、と口を開き掛けた時だった。バタンッと勢いよくドアが開く音がした。


「なまえ────ッ!」


やややばい、エースの声だ。さっそく来ちゃったんだ。あたしは身体を石みたいに硬くして口を押さえた。


「なまえ見てねェか?」

「おれはここでサッチの手伝いしてたんだ、見てねェ」

「おれも知らねェな」

「そっか。マルコの持ってるやつなんだ?」

「じゃがいも」

「サッチ今日の昼飯は?」

「コロッケ」

「よっしゃ!なまえ捕まえたらコロッケ大盛りだぞ!」


コロッケなまえコロッケなまえと訳の解らないことを呟きながらエースは食堂から出て行った。エースの足音が聞こえなくなった頃に身体(というか麻袋)がぐらりと揺れる。そっと硬いところに降ろされて顔を出したらあたしはテーブルの上にいた。マルコさんと目が合う。マルコさんもサッチさんもニッと笑った。


「上手くいっただろい」

「さすがマルコさん!」

「おれも褒めてくれよ」

「サッチさんもさすが!」


これでこの勝負はあたしの勝ちだ。やっぱりマルコさんを味方にしたのは正解だった。テーブルの上から降りて椅子に座る。その隣にサッチさん、マルコさんが座った。改めて見るとサッチさん、結構がっしりした身体してるなあ。トレードマークとも言えるリーゼントも決まってる。これでコックなんだからびっくりだ。人を外見で判断しちゃいけないって本当なんだと実感する。サッチさんはあたしと視線を合わせると口角を上げて笑った。笑った顔がよく似合う人だと思った。


「なまえはよ、本当に二十の女なのか?」

「? そうですよ」

「…マジで?」

「まじで」


サッチさんは眉間に皺を寄せて首をかしげた。信じたいけど信じ難い、って感じかな。あたしだったらきっと信じられないだろうし仕方ない。マルコさんが解ってくれてるだけでも有り難いと思わなきゃね。うんうん悩んでいたサッチさんは突然あたしの肩をガシッと掴んだ。覗き込んだ顔はものすごく真剣でちょっとびっくりした。


「…じゃあよ」

「うん?」

「子供の作り方って知っ」

「やめとけい変態」


言葉の途中だったサッチさんはマルコさんの手によりテーブルに叩き付けられた。顔面を。テーブルがガタンッて揺れたけど大丈夫かな。てゆうか二十って確かめる質問は他に無かったのかな…?そりゃ三歳でソレ知ってたらおかしいけど。サッチさんはぬぐおおおお…と呻き声をあげながら顔を押さえている。サッチさんはサッチさんなりにあたしを信じようとしてくれてる、と考えておこう。小さくなってしまった手でサッチさんのおでこを撫でる。サッチさんは涙目になっていた。可哀相に。


「サッチさん」

「んあー…?」

「それってせっく」

「お前もかい大馬鹿」


マルコさんに後頭部をばしんっと叩かれた。その所為で口を閉じて舌を噛んだ。い、いひゃいじゃないれすか!涙目でマルコさんを睨んだけど逆に睨まれた。めっちゃ怖い。そしてサッチさんがマジで二十か…と静かに呟いた。

ちなみに隠れんぼはあたしの勝ちだったので、マルコさんの約束通りサッチさんにデザートを作って貰いました!
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