マルコさんと一緒に親父の部屋へ行くと何故かそこはナースで溢れていた。ふわふわロリロリの髪が特徴であるリジィから抱き上げられると有無を言わさずワンピースを脱がされてあたしはパンツ一丁になった。いくら外見がつるぺた幼女でも中身はぴっちぴちの二十なんだ。ナースの前でもパンツ一丁は恥ずかしい。てゆうか親父もマルコさんもいるし。はなしてえええと悲鳴をあげるもリジィはにこにこして聞いちゃくれない。抵抗したってナースには効かない。他のナースがあたしの身体に聴診器を当てたりあたしの身体をぺたぺた触ったりメジャーで身長を計ったり。すべてが終わってワンピースを着せられた頃にはあたしはリジィの腕の中でぐったりしていた。くすくす笑うリジィからどうにかして逃げ出して親父の足にしがみつく。親父は豪快に笑ってあたしの頭を撫でた。
「お、おおっ、おやじい!」
「グラララ、おれの娘が簡単に泣くんじゃねェよ」
「だっていきなりこんなもみくちゃにされるなんて…!」
「なまえを診察しろと言ったのは船長ですよ?」
リジィの言葉にあたしはズザザッと親父から離れた。親父の隣にいたマルコさんの足に隠れて親父とナースを睨みつける。親父がそんなこと言うからナースがあんなことしたんだ。いきなり服脱がされて揉みくちゃにされてみろ、恥ずかしいし精神的に辛いんだからな!なんて親父には言えないけど。てゆうか今リジィ、診察って言った?今のって診察だったの?なんであたしを診察したの?病気にかかった覚えはないんだけど。マルコさんを見上げたら頭にぽんっと手を置かれた。
「で、リジィ。結果はどうなんだい」
「体重や身長、骨や内臓等の発達から見てなまえは三才児だということが解りました」
「…へ?さんさい?」
「それ以外は?」
「まだ何とも。本当になまえは大人になったのですか?」
「おれが嘘つくと思うかい」
あたしをそっちのけで話が進んでいく。ひとつ解ったのは今のはあたしの年齢を調べてくれていたということ。あたしって三才児だったんだ…モノホンの幼女じゃん。でも朝は確かに大人に戻ったんだ。マルコさんだってそう言っていたから夢じゃない。あたしも会話に入れて欲しくてマルコさんのズボンを引っ張る。マルコさんは少し目を丸くしたけど察してくれたのか抱き上げてくれた。それからあたしと目を合わせた。
「なまえは昨日酒を飲んだよない?」
「あー、のみましたね」
「おれはそれが原因じゃねェかと思うんだが」
「…おとなにもどった?」
「たいした学のないおれがはっきりとは言えねェよい」
そういうファンタジーなのはリジィに訊け、とマルコさんは顎でリジィを差した。リジィを見れば何故だか彼女はあたしをまじまじと見つめていた。なんだか目が輝いてる気がする。
「そうですね。お酒の所為で何らかのホルモンバランスが崩れて身体が元に戻ったのかも知れませんね」
「なんらかのホルモンバランスって…」
「でも戻ったのは少しだけだったのでしょう?」
「あぁ。すぐに縮んだよい」
「あまり多様しない方がいいかも知れません。身体に害があるといけないから」
「だ、そうだ。もう酒は飲むなよい」
「あれはサッチさんがわるいんです!」
サッチさんが飲ませたのがお酒だったんだ、あたしは悪くない。お酒を飲んだら元に戻るなんて変な身体。リジィは本当にファンタジーな有り得ないことばかり言うけどそれ以外は考えられないことを言うから頭ごなしに否定は出来ないんだよね。トリップがあるならその他の不思議現象があったって可笑しくないだろうし。…いや、可笑しいんだけどね。
「なまえは家で眠っていたらここへ来た、と言いましたね」
「うん」
「家で眠る前、何をしていたか覚えてます?」
「……、あれ?」
リジィの台詞を頭の中で繰り返す。だけど何も浮かんで来ない。眠る前あたしは何をしてたっけ?そこだけ空白になったみたいに思い出せない。名前は解る。年齢も解る。大学に通っていたし家族はお父さんとお母さんと兄ちゃんと四人家族。友達の名前だって元カレの顔だって思い出せるのに、眠る前の出来事が解らない。自分のことなのに。それがひどく怖くなった。
なんでだろう、なんで思い出せないんだろう。知らず知らず身体が震える。気持ち悪い、どうして。
不意に頭をぽん、ぽん、と。優しく撫でられた。
「無理すんじゃねェよい」
「……」
「隊長の言う通りです。ショックで忘れているのかも。そのうち思い出しますよ」
顔を上げるとリジィがにっこり笑っているのが見えた。周りを見たら親父もナースも笑っていて、なんだか照れ臭くなった。なんでだろ。なんであたしが不安になってるのがのばれたんだろう。頭を撫でるマルコさんの手がすごく恥ずかしくてじたばた暴れる。なんとかしてマルコさんから離れて親父の元へ駆け寄る。そしたら親父からも頭を撫でられた。ちくしょう、どいつもこいつも。
「こどもあつかいしないで」
「グラララ、お前はおれの娘だろ?」
本当の娘じゃないのに、なのに、安心する。あたしはいつの間にかこの人を信頼しきってるみたいだ。