※パロディです

夜中の0時を過ぎてから、真っ暗な夜道をひとりぼっちで歩く。もう少しで我が家だと分かってはいるが、会議や研究続きで凝り固まった脚を動かすのは想像以上に体力を使うし、それ以前にへとへとでもう何も考えたくない…でも。彼で家で待ってくれているのだろう。私の帰りを、待っていてくれているのだろう。そう思っただけで重かった身体が心ひとつ分、軽くなった気がした。早く帰らなければ。

***

「ただいまぁ」
「おかえり、ご飯出来てるよ」

そういって台所からひょっこり顔を出したのは、一緒に暮らし始めてもう三年になる、私の彼氏だ。未だに恥ずかしくて彼氏と言うのには抵抗があるが、でも決して彼が嫌だからというわけではない。むしろ気持ちだけは職場のみんなに自慢してまわりたいほど、よくできた彼氏なのだ。とまぁ、惚気はこのくらいにしておいて。軽くただいまのキスをしてから、感謝を伝える。

「ありがとうマルコ大好きー」
「俺も好きだよ、先にシャワー浴びてくる?」
「んー…ご飯食べる」
「わかった、じゃあ先に手洗ってきてね」
「了解ですマルコ分隊長」
「はいはい」

実は玄関のドアを開けた瞬間から、鼻孔をくすぐる美味しそうな匂いに、食欲が刺激されていたのだろう。マルコの返事に2つ返事で頷けば、見計らったかのようにお腹が元気よくぐぅとなる。それを聞いたマルコが優しく笑ったのが見えて、少しだけ顔が赤くなった。

***

カチャカチャと食器がぶつかる音が、部屋に響く。マルコの作るビーフストロガノフは今日も美味しくて、思わず目を細めた。仕事柄帰ってくる時間が不定期なのに、いつも私にできたてのご飯を出してくれる彼は、まるで魔法使いみたいだ。そういえば、と。ニコニコしながら私のご飯を食べる姿を見ていたマルコが、ふいに口を開いた。

「今日も遅くまで研究してたの?」
「そうだよ。もう少しブレードを多めに補充出来るように軽量化に挑戦してるんだけど、そうなるとブレードの耐久性がネックになってきてさぁ」
「軽くすると強度も落ちるもんな」
「そうなんだよー、いっぱい持てたとしても肝心の性能がいまいちだと意味ないし」

フォークを行儀悪く口に挟んでうなだれ、今日の実験を思い出して気分が少し沈む。人類が長い歳月をかけて研究してきたものだ、たった3ヶ月やそこらで結果が出ないのは当たり前なのだが…それでも前に進まないのは、やっぱりつらい。そんな私の気持ちを察してか、机の向かいに座っていた彼が、頭をぽんぽんとして撫でてくれた。

「大変そうだね」
「でも好きでやってる仕事だから、へこんでられないよ」
「まぁそういう専門的な仕事は、自分がそれを好きじゃないと続かないか」

そういって髪に優しく触れる手つきに、幸せな気持ちになる。頭を撫でられるのは好きだ、でもそれ以上に、彼が私のことを労ってくれている気持ちが伝わってくるから。だから…だからこそ、ダメだった。

「うん…でもほんと、マルコには申し訳なくって…」
「どうして?」

ごめんね、そういってしゅんとすると、彼は心底不思議そうな顔をした。優しいのは結構だが、いつか悪い人に騙されてしまいそうな人の良さに、少し彼のことが心配になる。そこが彼のいいところだと一番に理解しているつもりだし、大好きなんだけれど…。

「ほら…マルコだって調査兵団のことで忙しいのに、家事全般任せっきりでしょ」

そうなのだ、こんなにも生活が不規則な私の代わりに、家のことはほとんどマルコがやってくれている。普通なら調査兵団分隊長である彼を、私が支えてあげなければいけないのに。女だからというつもりはないが、彼だって隊長という立場上色々な責任や仕事があるはずだ。訓練兵の時、彼から調査兵団に入ると告げられたあの時に、彼の助けになろうと決めたのに。

「俺も好きでやってるんだし」

彼はこういってくれているが、負担であるだろうことには変わりない。申し訳なさから、さらに眉尻が下がってしまう。

「明日は早く帰れるから、ご飯作るね?」
「そんな、疲れてるだろし無理しなくてもいいんだけど…」
「マルコのために私がやりたいの!」

勢いよくいって机をたたく、カチャンと食器が小気味よく音を立てて動いたが、気にしてなんかいられない。マルコはそれでも少しすまなさそうにしていたけれど、私の意志がよほど強いことを分かってくれたのだろうか。困ったように笑ってから、頷いてくれた。

「じゃあ…お願いできる?」
「まかせて!なに食べたい?」
「アキラの作ったものならなんでも美味しいから、迷うなぁ」
「…お世辞にしてももうちょっとましな言い方してよ…」
「ほんとだよ?アキラの料理には愛情が詰まってるから、なんでも美味しい」

嘘だ、マルコの作るご飯の方が美味しいに決まってる。私は時々しか料理を作らないからよく失敗するし、そうじゃなくてもマルコのご飯はとても美味しいのだから私が適うわけがない。そう抗議しようとしたら、思いがけない彼の発言で目が丸くなる。恥ずかしくなって喉まで出かけた言葉を飲み込んで、なにも感じていませんよと座り直した。赤くなった顔をごまかすように、フォークでサラダに添えられているトマトをさして口に運ぶ。これで天然なんだから始末が悪い。

「マルコってば、なんでそんなにかっこいいことサラッと言えちゃうのかな…」
「?」
「じゃあハンバーグ作るね、ソース二種類作って」
「うん、楽しみにしてるよ」

***

二人でずっと一緒にいられる未来があるとするならば、それはとても幸せで、愛しいことなんだろう。好きだよ、こぼれ落ちるようにそう呟いたら、うん、俺もだよって。それが当然みたいに、そういって笑った彼と二人でいられる、永遠が欲しいと願った。


ある幸せな未来のはなし

20130810 あき




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