寂しいよ、電話越しでそう告げてみた。
午前零時を回ったあたりのことだ、忙しい合間を縫って電話をかけてきてくれた彼に、ほんの少しのわがままのつもりで。言った瞬間「しまった」と思った、こんなことを言ったら彼を困らせてしまう。気をつけていたはずなのに、思ったときにはもう口から言葉がでてしまっていた。

「あぁ? お前」
「やっぱ嘘、忘れて」
「嘘って言ってもよ」
「ちょっと仕事で疲れてただけだし、もう大丈夫だから! ライアンだって忙しいのにね、ごめん」
「勝手に完結せんなって」

そんな押し問答を繰り返した後、電話越しにビープ音が鳴って女の人の声。これが仕事を知らせるものだということは、すぐにわかった。短い舌打ちと少しの沈黙……切り出したのはやっぱり私からだ。

「ほら、早く返事しなきゃ。こんな時間まで仕事なんて、ヒーローって大変だね」
「おいちょっと」
「少しでも声聞けて嬉しかったよ、ほんとだよ?」
「……アキラさぁ」
「もう切るね! お仕事頑張って」
「ちょ」

続きなんて聞きたくなくって、彼の返事を待たずに電源ボタンを押した。通話終了の音も聴かずに携帯をポケットに突っ込んで、早足で家に帰ることにする。寂しいのも悲しいのも、全部全部凍えるくらい寒いから。そうやって天気のせいにして、ポケットの中で冷たいそれを握り締めた。空は星一つない曇り空で、まるで私の心みたいだ。

***

家について、長めに湯船に入って温まり、お気に入りのパジャマに着替えて、洗ったばかりでふわふわの布団にくるまって。いつもならぐっすり眠れるはずなのに、今日はなんでか眠れない。……原因は、分かっているのだけれど。でも分かったところで解決しようもないし、どうしようもないことなのに。一つため息をついて、ベッドから降りる。こういう気分の時はホットミルクでも飲んだらいい。

少し甘めのホットミルクの入ったマグカップを片手に、カラカラと扉を開けてベランダに出てみる。星が一つでも見えていれば気分も明るくなるかなと、そう思ったからだ。しかし星どころか月一つ見えない夜空に、またため息が出てしまった、これでは余計に気持ちも沈んでしまう。
それから、考えて考えて、一回だけ声に出すだけならいいかなって。気持ちを切り替えるためだ、そう自分に言い訳をして、ぽつりと一言本音をこぼした。

「寂しいな」
「なら素直にそういえよ、ばーか」
「!?」

振り返ると、閉めたはずの扉が開いていて、いるはずのない人物がそこにいて。夢を見ているのかと思った、それぐらい理解できなかった。
彼は柄にもなく肩で息をし、額には汗がにじんでいるような気がする。もしかして、走ってきたのだろうか。驚いて言葉も出せない私をみて、はぁ、と深いため息の後、彼が口を開いた。

「ったく、俺をこんなに焦らせるやつはアキラくらいだっつーの」
「なんで、仕事は?」
「片付けた」
「あれから一時間も経ってないよ」
「おいおい冗談言ってんなよぉ? 俺を誰だと思ってんだ、泣く子も平伏すゴールデン・ライアン様だぜ?」
「答えになってないし」
「あー、とにかく! 疲れたちょっと充電させろ」

腕を掴まれたかと思えば、すぐに彼の腕の中に引き寄せられる。首元に顔をうずめて匂いを嗅ぐ癖、肌に触れる少し固めのブロンドの髪、胸いっぱいに広がる彼の匂い。全部が彼をここに証明してくれていて、チカチカと目眩がした。
嬉しくて、嬉しいのにまだ言葉は出てこなくて。だからありがとうの代わりに、力いっぱい抱きしめかえす。そんなことしかできなかったのに、彼はなんでもお見通しのようだ。満足げに笑った吐息が、首にかかってくすぐったい。

「来てくれないと、思ってたよ」
「ばっかじゃねぇの? あんなこと言われたら飛んでくるに決まってんだろうが。当たり前だろ」

当たり前だろ、たった一言、それだけで私を笑顔にしてしまう彼だから、どうしようもなく惹かれてしまう。こんなに暗い夜なのに、あなたはまるで太陽みたいに明るいのだ。


にひひと太陽が笑うから


20140327 あき

企画サイトonewrite様に提出させていただきました!
素敵な企画に参加できて光栄でした!




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