もうすぐ昼休憩だという時間なのに、私はというと「昨日は誘惑に負けて完徹でゲームをしてしまった…今日早番だって覚えてさえいたらこんな愚行しなかったのに…!」と、ひたすら昨日の己の行いを悔やんでいた。たまった荷物はまだまだあるのに手が動いてくれない…いやしかしあのエンディングは泣けたな、特に主人公が身を挺して仲間を守るところとか興奮したなぁ。

「おい、現実逃避は休憩時間にでもやれ」
「…あーい」
「ただでさえ今日はペースがおせぇんだ、倍速で動け」
「うぃ〜」
「…」

あだ、無言で頭を叩くことないと思いますちくしょう。リヴァイは私を女の子だと思っていないだろう!と怨めしげにリヴァイを見たら、働かないアキラなんてゴミにも劣ると吐き捨てられた、ガッデム!それは酷すぎやしないかリヴァイさん!

「肥料になる分ゴミのがましだろ」
「リヴァイの罵詈雑言で私のハートはばりばりにくだけ「もし明日に仕事を回すようなことがあればお前が取り置きしてる本を全部店出しする」
「!?」
「まぁそういうことだ」
「ちょ、まってあれはもう絶版になってるのとか重版かからない本達なの!今回を逃すと二度と出会えないであろう本もあるの!次の給料日に買おうと思っ「店出しする」
「分かりました働きます働きますから後生だからぁ!」
「キビキビ動けよ」
「…リヴァイの極悪人…!」

今日は忙しくなりそうだちくしょう。…と、本日二度目の悪態をついた。リヴァイはきっと人の皮を被った鬼に違いない。

***

朝の寝ぼけ眼でゆったりした時間はどこへやら、腕をフルスピードで動かし続けたおかげで(後でペトラが「先輩の周りだけ時間の流れが違った」と言っていた)空が暗くなる前に、仕事がほぼ片付いた。残りは新刊コーナーの陳列整理とレジで出来る仕事だけだったので、とりあえず入り口前の新刊コーナーに移動する。するとふいに自動ドアが開いた、反射的に「いらっしゃいませー」とそう言ってドアの開いた先を見れば、そこに立っていたのは意外な人物だった。

「サシャじゃない」
「こんにちはアキラ」
「あれ、学校は?まだ部活の時間でしょ」
「今日は早めに終わったんです。でも特にやることないので立ち読みに」
「冷やかしお断りなのでどうぞお帰りください」
「ひどい!ひさびさに話してるのに!」

冗談冗談、そういって笑えば「私はアキラに会えなくて寂しかったですよぅ」なんて可愛いことを言うので、頭を撫でてやった。

「仕事残ってるから構ってあげられないけど、好きなだけ時間潰して帰りな」
「はーい」

***

そういって分かれた後、料理コーナーで30分ほど立ち読んでいたサシャが、何かを見つけたらしく血相を変えて私のところまでやってきた。

「アキラー!」
「わっ、サシャ…本屋で大きな声出さないでよ」

鼻息荒く近づいてくるのをなんとかなだめようとしたが、どうやら無駄のようだ。こうなってしまった彼女は誰にも止められやしない。

「これ! これがすごく食べたいです!」
「牛煮込みグーラッシュ?…こんなめんどくさそうなもの、よく見つけてくるね」
「食べたいです!」

あまりにも彼女が必死に詰め寄ってくるものだから、思わず頷いてしまった。食事のこととなると、いつもと気迫がまるで違うな。

「分かった、分かったから声のボリューム落として」
「本当ですかぁ!?」
「ほんっとに私の話を聞かないねキミは…その代わり、レシピがわかんないからまずその本買ってくれる?」
「了解です!」

そういうと、サシャは一つ返事で財布を取り出した。レシピ本を買うお金があるなら、そのお金で美味しい惣菜の一つでも買ったほうがいいんじゃないかという疑問は、この店の売上のためにも黙っておこう。

「それから…」
「アキラ!今日の夜楽しみにしてますね!」
「ちょっちょっと!…材料とか、どうすればいいの」

買っていった本を作る人間に読ませることなく持ち帰るとは…。ほんと、あの子はやることなすこと一直線なんだから。ふぅ、と息を吐くと、エルドが話しかけてきた。

「賑やかな子ですね」
「可愛い隣人だよ、興奮すると少し人の話が頭に入らないこともあるけど」

サシャ・ブラウスは私の住んでいるアパートの、右隣で一人暮らしをしている高校生だ。いつもお腹を空かせている貧乏学生という印象だが、噂によると部活の弓道のレベルは全国でも彼女の右に出るものはいないというくらいすごい人物らしい。まぁ私は実際試合をしているところを見たことがないので、腹ぺこ学生、という印象から抜け出せずにいるのだけど…。とりあえず、次の休み時間にメールでもして、必要な材料だけでも教えてもらうことにしよう。


***

「んー! おいひいれふ〜」
「それはよかった、ちゃんと噛んで食べなよ?」
「ふぁい!」
「口に何か入れながらしゃべるの禁止」

こくこくと頷いて、皿の中身をかきこんでいくサシャを見ながら、幸せそうだな、と笑った。部屋にはサシャが買って持ち込んできたまま放置されているレシピ本が塔をなしていて、棚にいれるとなると本棚一列は軽く埋まってしまいそうだ。

「ねぇサシャ」
「?」
「明日試合あるんでしょ?お弁当作ってあげようか」

サシャが私の家でご飯を食べたがる時は、たいてい何か次の日に大事な用事がある時だと決まっていた。で、肉を食べたいという日は、次の日に勝負事がある日だ。

「いいんですか!?」

目を輝かせる彼女を見て、受け身のとれる体制をとった。この子ってばタックルかます気だな…!

「アキラー!大好きです!」
「っわぁ!」

体制を崩した私のことなんてお構いなしに、顔をこすりつけて全身で喜びを表現してくる。そんなサシャの頭に手を置いて、仕方ないなと髪を撫でた。可愛い妹分の勝利を祈願して、明日は少し早起きしてあげようか。

***

サシャが帰ってから、指定されたおかずで、手間のかかりそうなものの下ごしらえをあらかた済ませておく。明日の仕事は昼からだし、これだけ事前にやっておけば二度寝する時間くらいあるだろう。そう思って腕を伸ばすと、丁度いいタイミングで携帯が鳴った。この着信音は、メールかな…とメール受信の相手を見る、すると送ってきた相手はリヴァイだった。こんな時間にリヴァイから、それもメールなんて珍しいこともあるもんだ。スマホに変えたのはいいが、ただでさえ使いにくい携帯が更に使いにくくなったとかなんとか言って、必要な時以外触ろうとすらしないのに。そう思いながらメール画面を開く。

『レジの精算作業が終わってなかった。本は明日朝一で店だししておく』
「…ああああああああああ!!!」

前言撤回。明日は朝一でお弁当を作ってサシャに届けたあと、開店作業前の店に行ってリヴァイに土下座することになりそうだ…。


書店員のおしゃべりクッキング

20130923 あき




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -