「あ、当たり前ヨ!
だから飴と一緒に食べるアル!」

なるほど、と思いまたも勝手に赤い飴と青い林檎にかじりつく。


「また食ったナこの!!(怒)
ってゆうか人のもん勝手に食うなヨ!」



ムスッとして見上げてくるので、ニッと笑ってやる。
「間接キスでィ」と言えばまた真っ赤な顔で反駁をする彼女。


「そんなに嫌だったかィ…?」



しゅんとして見せると、目の前の少女は簡単に騙されて「うっ;!!」と口ごもる。

そんな素直な姿も、普段の自分には滅多に見せてもらえない姿であり、可愛いな…と嬉しくなる。


さらにはおずおずとかじりかけの赤いそれを自分に向かって差し出してきたため、沖田は目を見張った。



「え?」



「…半分までなら…
やるヨ///」



そう言って、大食いの癖に大事に食べるくらい好きなそれを分けてくれようとする神楽に、愛しさが募る。



「…サンキュ。
でも、それは神楽が食べなせェ。」


ポンと神楽の頭に手を乗せると、シャラ…と簪が軽い音をたてて揺れた。

手の下にある桃色の髪は、総悟が思ったより細く柔らかく、万事屋の旦那がよく頭を撫でる訳がわかった気がした。


おまけに不思議そうに見上げてくる丸い目が可愛らしい。


(やべぇな。)



ズルズルと可笑しいぐらい彼女にはまってゆく自分に苦笑が漏れる。




「じゃあ…綿飴は半分ずっこするアルか?」

「何でィ、半分こしてぇのかィ?」



「なっ;///」




顔を真っ赤にしてあわあわと口を開けて驚いた神楽は顔を俯けた


クスリと笑って「林檎飴みたいでさァ」と耳元でいうと、顔を背けたままの神楽から「バカ」と返ってきた。


このまま抱きしめてもいいだろうかと思う自分を何とか理性で繋ぎ止める。


何事も焦りはいけない。
何せ雰囲気はいいように思えるが、色好い返事を貰えたわけではないのだ。



「おい、こっち向けィ。」


少しでも今日この時の彼女を見逃したくない。

今この時だけでも、彼女の青い瞳が写すのも、無邪気に笑ってみせるのも自分だけであってほしかった。



「神楽、こっち…」

「…総悟?」




沖田の後ろからかけられた声に、二人ともはっと目を見張った。



「オメーは仕事サボってまた遊んでやがったな?」



イライラした様子の上司、土方には沖田の前に立っていた神楽は小柄なため沖田の背に隠され見えないようだ。



「くそっ…こんなときに。
邪魔する前に死んでくんねぇかな土方。」


忌々しげに呟けば、しっかり聞こえた土方は青筋を浮かべてこちらに歩み寄ってきた。




「ったく総悟…テメェいい加減ガキくせーことしてんじゃねぇぞ。仕事をなめんな…。」
「俺が舐めてんのは…
!」



ブツブツと愚痴を言う土方を切り捨てようかと考えていると、急に袖を引っ張られた。


目を見張って前へ向き直ると、既に顔をこちりに向け、悪戯っぽく瞳を輝かせた神楽が自分を見上げていた。

頬はまだ、ほんのり林檎色。




「かぐ…」

「…逃げるアル。


さらって…ヨ?」



ドオォ――ン!!!




花火の音が響いて刹那、赤や青の光に照らし出された白い顔。


背後で上がった花火に、辺りで沢山の歓声が響く。





花火が始まった、と走り出したり歩き出す人の群れが花火の打ち上がった方へと移動を始める。



もうひとつ花火が打ち上がった瞬間、その手を取って人の来る方へと走り出した。




「あ、ちょっ、おい待て!

総悟ォ;!」



人の並みに押されて前へ進めぬ土方の声は、走り去る沖田の耳にはもう届かなかった。


しかし姿だけでも沖田を追う土方の目には、沖田に引かれる少女の桃色の髪が写った。







「…チャイ…ナ…;?」

そのまま土方が固まったのは言うまでもない。


カラカラカラッ



下駄の高い音が喧騒の中でも総悟の耳に響く。


人の波を押し退け、神社の境内の最奥の方から、裏の人通りの少ない入り口まで走ってきて沖田が漸く足を止めたのは、後ろから呼び止める声があったからだ。



「沖田!」


振り返ると、珍しくも神楽の息は僅かではあるが乱れていた。

暗い中でも、時折上がる花火の光で、髪がやや乱れているのがわかる。


よく見れば、掴んでいない方の手で浴衣の裾を掴んでおり、着なれぬせいで疲れたのだろうことが見てとれ、それに気づかずに走り続けた自分に、総悟は内心で舌を打った。



「すまねぇ…平気かィ?」


その言葉にコクンと頷いた神楽だったが、沖田の目に下駄の鼻緒で擦れて赤くなった、神楽の白い足が写り、より苦い気持ちが広がった。



「足…いてぇか?」

「平気ヨ、痛いのは慣れっこネ。
どうせ直ぐに治るアル。」



心配そうな総悟に、安心させようと神楽は笑って見せた。
しかし次には気まずそうに、恥ずかしそうに顔を赤らめる。



「そ、それよりここまで来たら平気だロ?
…だから、手を…///」


言われて漸く白い手を掴みっぱなしだった自分の手に気がついた。



「…沖田?///」



離すどころか、キュッと握った総悟を神楽は不思議そうに見上げた。



「…林檎飴は…」

「え?あ、落としたみたいアル…。」



問われた神楽は、掴まれたままの手のことを気にしつつ、買ってもらったのに落としてしまったことを謝った。


その残念そうな顔に、沖田は小さく頷いた。



「神楽、ちょっとここ座って待ってな。」


「え?あっ…」


押されるままに大きな石の上へと腰かけさせられた神楽が声をかける前に、総悟は再び雑踏の中へと入っていってしまった。


簡単に離れてしまった手に、神楽が少しの名残惜しさを感じているとも知らず。

しかし神楽が不安を覚える間もなく、沖田が人混みを掻き分けて戻ってきた。

そして直ぐに神楽の目の前に、手に持っていたものを差し出した。



「これで我慢して貰えるかィ?

林檎飴売ってる方はマヨ臭いんでねィ。」
その言いぐさに、神楽も小さく吹き出して見せ、沖田もほっとして口元を緩めた。


「じゃあ…半分ずっこ、するアルか?」


クスクス笑いながら見上げてくる彼女が少し大人びて見えてドキリとする。


つい反応に遅れると、神楽は不思議そうに首を傾げて、受け取った綿飴を指で摘まんで沖田の方へと差し出した。



「食べるヨロシ。」


ニコッと笑って言う彼女に、思わず頬の熱が上がる。


(このまま食えって?///)


躊躇う沖田に、神楽の顔が、何故か段々と赤くなっていくことに沖田も気がついた。

自分の今しでかしたことに気づいたのだろうかと思ったが、そうではないらしい。






「…ソーゴ…?///」

「へ!!?///」



神楽の思わぬ攻撃に、動揺した総悟は目を見張った。

言った神楽の顔も、言われた沖田の顔も真っ赤である。


お互いに何も言えず、何かを言おうとしては口をつぐんでアワアワとしていた。

終止符を打ったのは、情けなくも神楽の方であった。

指に摘まんでいた綿飴を食べ、プイッとまた顔を背ける神楽に、総悟は若干焦る。



「もうお前に綿飴あげないネ!」



怒ったのであろうかと不安に思っていると、目の前に手を出された。



「?」

「お前と、


ソーゴと手…繋いでたいアル////」



伏せられた顔はうなじまで赤く染まっており、それはきっと彼女なりの『返事』なのだとわかり、緩みだした口元を押さえることが出来なかった。差し出された手を掴むと、ピクリと指が過剰反応を示し、またも総悟の口は緩む。


「神楽。」

「…何ヨ?//


あっ!!」




パクリと彼女の手に持たれたままだった綿菓子にかぶりつくと、咎めるような小さな悲鳴が上がった。


「あんまり甘くねえなァ。」


首を傾げて言う総悟に、神楽は当たり前ヨ。と断言する。


最近の綿菓子は甘くないのか?と疑問に思う沖田に、立ち上がった神楽が沖田の手を引っ張った。



耳打ちするのかと思った途端に今夜一番の大きな花火が打ち上がる。


しかし花火が打ち上がることがなかろうが、神楽の声が沖田の耳に届くことはなかった。


そのメッセージは彼女の唇が総悟の頬に触れることで伝わったのだから。




(…そーゆうことかィ。)



綿菓子が甘くないのは、林檎飴も綿飴も叶わぬほどに甘いものを手に入れたから。


これ程甘美なものもないだろう。



「なぁ、神楽。


…好きでさァ。」




夜空に上がる花火に目が行かぬほどに、その甘さに酔いしれる。



総悟の放った甘い言葉に、神楽は聞こえるか聞こえないかの声で



「私もヨ。」



と囁いた。






おわり





長くてすいません
年相応の純愛を目指した(笑)

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