07、世話人



『…桃井と黄瀬は体調不良だそうだ。』


校外学習でカレーをつくることになった。メニューは班ごとに違うので、その材料諸々は勿論自分達で用意する。

日曜日。待ち合わせに向かうと、そこには赤司君の姿しかなかった。




“赤司君は違うって言ってたけど、本当は付き合ってるんでしょ!?なまえちゃんのスマホの待受が赤司君との2ショなの見ちゃったの!ごめんね!
私ときーちゃんは行かないからさ、明日は二人でよろしくっ!”


そんなメールがやってきて、どう説明していいのかわからなくて、面倒で放置した。今思えば適当に誤魔化せばよかったものを。
当人たちは気を利かせたつもりなのだろうけど、非常に有難迷惑。赤司君もきっとそう思ってる。


『とりあえず、行こうか。』

「うん。」


隣にいるけど、手は繋がない。目も合わせない。二人の間には適度な距離ある。

だって、赤司君と私の関係はその程度のものだから。

それが心苦しくなる私はおかしいんだ。












『…まだ時間ある?少し付き合って。』


じゃがいも、たまねぎ、にんじん…駅前にある大型スーパーで一通り必要なものを揃えて、私の予定ではそこで解散のつもりだったのだけど、赤司君はそうではなかったみたい。寧ろ、彼の方が寄り道を好みそうな感じしないから正直驚いた。


「いいけど…」


でも、その表情から感情が読み取れる事はないし、何を考えてるのかよくわからない。

言われた通りに彼について行くことにしたけど、休日の中心街は人が多くて歩きづらくて、何処へ向かっているのかもわからずにつかつかと前を歩く赤司君が少しずつ離れていく。




そういえば、この位置から、彼の姿を見たことはなかった。目の色も前髪の長さの違いもここからならわからない。


よく目立つ赤い髪、シンプルな無地のグレーのシャツ。征ちゃんと全く同じ後ろ姿が目に映る。

私に背を向けた征ちゃんが離れて行くみたい。どんどん、遠くなって行く。手を伸ばしても届かない。





「バイバイ、なまえ。」





待って、待って、

私を置いて行かないで。





「ま、待ってっ!」




唇をかみしめて、泣きそうなのを堪える。


いきなり強く手首を掴まれた赤司君は少しキョトンとした顔で私を見つめて、それから人通りの少ない細い路地へと歩き始めた。

赤司君の袖を掴んで、これが手を繋ぐという行為に入るのかはわからない。ただ、今は離したくない。私の気持ちを汲み取ってくれたのか、それともただの気まぐれか、彼が私を受け入れてくれたことに少しだけ心が救われた気がした。彼が征ちゃんに似ているからなのかは解らないけど。



暫く目的もなしにフラフラと歩いて、気まずさがなかったかといえば嘘になるけど、でも、君がさりげなく車道側を歩いてくれた事も、重い方のビニール袋を持っていた事も、私は気づいていたよ。

君の優しさはいつも主張しない。そっと、私を助けてくれる。






『…少しは落ち着いた?』


「うん。」


『そっか。』



彼は空を仰いで、また無言になる。けど、今度のは短くて、思い出したかのように彼は話をし始めた。




『…今日さ、桃井と黄瀬からみょうじさんを慰めるよう頼まれたんだ。』


「え?」


『いつも君は悲しそうにしている。だから、心配しているんだろう。君は周りを気にしなさすぎだ。』


「ごめんなさい…」


彼の言葉には重みがあるから、思わず萎縮してしまう。

心配してくれる友達は大事にするべきだと、真顔で言う君はまるでお母さんみたいだ。なんて言ったら、不機嫌そうな顔するかな?



『泣く事は精神を和ませるにはいい方法だと思うが、誰かを頼ることも必要だと思うよ。』


「うん。」




無愛想な君はわりと世話焼きで、やっぱり君は征ちゃんじゃない。



「なまえは僕以外、見なくていいんだ。他の誰にも心を許さないで。」



征ちゃんだったら、そんなこと絶対に言わないから。




私、一人ぼっちに酔っていたんだ。

見渡せば、私の周りには暖かい視線があったこと。



(狭い世界にいた私は、何度も君に大事なことを教えてもらった。)


 

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