06、相違点




「それで、なまえっちと赤司っちは付き合ってるんスか?」


来週、校外学習という名のキャンプが行われる。親睦会のようなものらしいけど。
その班会議の途中、黄瀬くんは唐突にそう言い出した。彼曰く、私と赤司君が毎日一緒にいると勘違いしてる人がいるそうだ。ただ、席が隣ってだけなのに。


『付き合ってないし、興味ない。』

「あ、そうなんスか…」


赤司君は今日も相変わらず無愛想で、少しもその口元が緩むことはない。

いつも笑ってる黄瀬くんも思わず苦笑いの始末。ずきり、私も勝手に胸を痛めて、相変わらずなのは私もだけど。

もしも仮に付き合うことになったとしても、彼と私は性格合わないんだろうな。なんて、なに考えてるんだろう、私。



「来週、楽しみだね、なまえちゃん!」

「あ、うん。そうだね。」


私の隣に座ってるのは、桃井さん。同じ班で、クラスの中で唯一会話をしている女の子だけど、友達と呼んで良いのかわからない。



『…それでは、それぞれ役割分担を決めようか。まずは当日の自炊についてだが、』


赤司君によって話し合いが淡々と進んで行く。時々、黄瀬君が異論をぶつけても軽々しく突き放してしまって、彼の口には誰も逆らえなさそうだ。


「少しは俺の意見も採用して欲しいっス。」

『君の発言には説得力がないから、却下だ。』

「赤司っち厳しすぎっス!」


そんな光景に桃井さんは笑っていて、私も笑った。


でも、私といえば参加しているようで、全く話を聞いていなかった。それどころじゃなかった。



ねぇ、どうしてこんなところまで似てるのだろう。どうして、見つけてしまうんだろう。



「僕に異議あるものはいないよね?僕のいう事は絶対だよ。」



人のことをまとめるのが得意なところ。

征ちゃんの場合、若干、威圧かけるところあったけど。 いつも先陣切ってる、そんな逞しい征ちゃんも大好きだった。って、言ってみるけど、まだ過去にはできてないよ。

征ちゃんにはもう新しい恋人がいるというのに、私はまだ切り替えられない。
最低だとわかっていても、嫌いになんてなれない。


スマホの待ち受けだって、二人で撮ってプリクラのまま。こっそりつけてるネックレスにはペアリングがぶら下がってる。家に帰れば、二人の写真が残ってる。

捨ててしまいたい。

捨てられない。

捨てたくない。

ぐるぐると矛盾ばかりの感情が廻る。

忘れたいと願って、忘れる気なんてちっともないいんだ、私。溺れたままで、いつか息が出来なくなって、死んでしまうのかな。

その前に、誰かが助けにきてくれるのかな。

もしも、助けに来てくれるとしたら、それは誰だろう。
















『みょうじさん…俺の話聞いてた?』

「ん、あ、えっと、あれ、他のみんなは?」

『とっくに解散したけど。』

「そうなんだ…」




ちらりと周りに目をやれば、クラスにはほとんど人は残っていなくて、気がついたら下校の時間になっていた。


さすがに赤司君も呆れ顔になってる。はぁと溜息を着いて、それから、明後日の日曜日に買い出しに行くのだと教えてくれた。





『それじゃ俺は帰るよ。』


「ありがとう。また明後日。」


『うん。…ああ、そうだ。』





去り際に頭を撫でられて、赤司君、それ、あまりにも不意打ちすぎるよ。




『君、今日は泣かなかった。』




偉いね。と、まるで子供を褒めるみたいに。ああ、もう、せっかく堪えていたのに、そんなことされてしまったら瞳に涙が溜まってしまう。どうしてくれるの。

この人、女が嫌いだと言っていた割には人の事、よく見てる。




顔を上げるとほんの少しだけ口角をあげている赤司君がいて、失礼かもしれないけど、正直、驚いた。この人、こんな顔できたんだって。




『明後日、遅刻するなよ。』




初めて笑ってるところみた。

いつもどこか含みのある笑い方する征ちゃんとは違う。

優しく微笑む姿。




(はじめてみつけた、君と彼のちがうところ)



 

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