05、嫌悪感


中学の頃から俺は女が嫌いだ。

だからといって、男が好きだという語弊は勘弁して欲しい。そういうわけではない。言ってしまえば、人間が嫌いなんだ。

特に恋だの愛だの騒いでる奴らを毛嫌いしてる。



「好きです。付き合って。」


それも、もう聞き飽きた。

どうせ俺が興味ないと突き放した一ヶ月後には、何事もなかったように他に恋人を作るのだろう。案の定、その子は5日後に「好きな人ができた。」とクラスで騒いでいるのを聞いた。今度は野球部の主将だと。他人の色恋にどうこう首を突っ込むつもりは毛頭ない。たが、随分と切り替えが早いのだなと毎度感じていた。


ーーー好きです。

それでは彼女のあの台詞にどんな意味があったんだろうか。一時の気の迷いだったのだろうか。

考え始めて、思考を止めた。
答えなんて探す価値すらない。













………ああ、お前もか。


溜息が出そうになる。読書に集中できないほど、隣の席からじりじりと焼けつくような視線を感じた。彼女とはまだ一言も会話が成立してすらいないのだが。


俺は知っているよ。今まで俺に好きだと言ってきたやつらも、彼女と同じ瞳をしていた。

下手をすれば自惚れ同然なのだけど、人から好意を寄せられることには慣れていたし、その対処法もすでに身につけていた。


『俺の視界に入ってくるな。』



大体の女はこちらが冷たく当たれば腹を立てて近寄らなくなる。おまけに群れる習性があるから自然と噂ばかりが先走ってしまうのも特徴的だ。赤司君は冷酷だ、と。こちらとして、有り難いことで、複雑なようで単純だから扱いは楽。


けれど、君は腹を立てるどころか、いきなり泣き出したものだから、さすがに 吃驚した。



「私っどうしたら、いいの、かな。分からない。」


思わず屋上に連れ出してしまったのだが、さて、どうしよう。

人を突き放すことはできても、慰めることなどできない。今まで関わろうと思ったことなどないし、正しい女の扱い方はよくわからないんだ。

俺は何もできずに、彼女の投げかける言葉に返すこともせず、ただ、彼女が泣き止むのを待った。








君は出会った時から、俺のことを見る度に苦渋に満ちた表情をする。

ねぇ、気づいていないと思った?


(まるで、俺の先にいる誰かを見つめているように思えた。)


 

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