03、夢の中
今日も、あの頃の夢を見た。
「あ、赤司君好きです。 あの、付き合ってくださいっ!」
「いいよ。」
彼を体育館裏に呼び出した。緊張で震える身体を抑え、持ってる勇気を全て振り絞って伝えた気持ちに、彼は間も置かず、返事をくれたの。
しかも、イエスと。
「今日から恋人だ、なまえ。だから、僕のことも名前で呼んでね。」
「そ、それじゃあ、征ちゃんってよ、呼ぶねっ!」
「ダメ。呼び捨て。」
「い、いきなりはハードル高いから、最初はあだ名でお願いします…!」
「まあ、いいか。」
ほらおいでなまえ。と、私を呼んで、ぎゅうっと彼に抱きしめられた途端、涙が出そうになった。
それは中学1年生、5月のこと。
文武両道、眉目秀麗。完璧という言葉はまさに征ちゃんののことを指すのであろう。そんな彼と私が付き合うことになるとは思ってすらいなかった。告白も玉砕覚悟の上だったから。
私が征ちゃんを初めて見たのは、入学式の新入生代表で彼が壇上に立った時。一目見た瞬間、恋に落ちていたんだ、きっと。
「征ちゃん!」
何かある度に彼の名前を呼んで、私は確かにこの人と付き合ってるのだと何度も感じて安心していた。
「なんだい、なまえ。」
「なんでもないよ!ただ、今日も大好きだなって思ったの!」
「お前は本当に可愛いやつだな。ほら、こっち、おいで。」
「うん!」
優しく抱きしめられるのも、キスされるのも、征ちゃんだから幸せだった。
もちろん、それ以上のことも。征ちゃんになら全て捧げられると思ったし、彼が望むのなら私もそれを望むの。
「ねぇ、征ちゃんは私のこと好き?」
「ああ、好きだよ。狂おしいほど好きだ。このまま閉じ込めたいくらいに。」
私も征ちゃんの腕の中にずっと居たいよ。
いっそ、このまま溶け合えてしまったなら、どれだけ幸せでしょうか。
一つになってしまいたい。
そしたら、離れることなどなかったのに。
とても短い夢だった。
好きな人のそばに居れるだけで私は満たされて、それ以上なにもいらなかった。
貴方以外、私には必要ないの。
『おはよう、みょうじさん。』
「……おはよう。せいちゃ、赤司君。」
『次は移動教室だよ。』
「あ、うん。」
(ああ、まだ私は夢と現が混沌してる。)
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