30、所有物
※暴力シーン注意してください
『……それって襲われたってことだろ?』
「そういうわけじゃないんだけど……そうなのかな?」
ずる休みがバレて、外で立ち話するのもなんだからと自室に招き入れたものの、またしても、隠し事が見つかってしまった。
最も彼氏には言いたくなかったこと。それは私の首筋にあるキスマークで、現在の恋人に付けられたものではない。最初は虫に刺されたで押し通そうとしたのだけど、もちろん通じるわけもなく。
いつもの冷静な彼と違う。それは雰囲気から察して、静かながらも憤怒していることがよく分かる。
私の首のそれを撫でるように触って、「すまない。」と謝ってきたものだから、私は俯く彼のことを抱きしめた。
「征十郎のせいじゃないよ?」
『いや、俺のせいだよ。』
「私、そんなに気にしてないから平気だよ?」
一週間休めば直るしと思わず出た言葉に、「学校をそんな理由で休むのは許さないよ。」と返って来たので、明日からは登校するしかなさそうだ。
でもね、私は征十郎に自分のことを責めてほしくないの。
「…ちゃんと、親には説明するから。」
今日から一週間、お父さんの出張の付き添いでお母さんもいない。
まだ先にはなってはしまうけど、今回みたいなことになっても困る。
だって、私のとても好きな人は、今目の前にいる彼なんだから。
顔は同じだけど、征ちゃんじゃないってこと、周りにもわかっててほしい。彼のこと、大事にしたいから。
『…なまえのそういうところ、尊敬するよ。』
「どこ?」
『真っ直ぐなところ。』
「!」
不意打ちで唇を奪われて、最近の彼は割と大胆だから心臓に悪い。
その後に照れ臭そうにでも、嬉しそうに笑う彼が愛しい。
「日を改めて、俺もきちんと挨拶しに来るよ。」と、真剣に見つめられて、まるで婚約でもするみたいだなって思って、勝手に恥ずかしく感じた。
『……あとさ、なまえ。まだ確信はないが、聞いて欲しいことがあるんだ。』
「…けほっ、ごほっ、」
「なんだい、もう終わりかい?」
「テメェはなにもしてねえだろうがっ!」
「……ほお、この状況でよくそんな口が聞けるな。……やれ。」
赤司の隣にいるやつに腹部を強く蹴られて、また身体に痛みが走る。
さつきや黄瀬だけではなく、もちろん俺にもみょうじからの忠告メールが届いた。
あの黒服は、あの赤司の手下だと。だからこそ、帰り道に赤司と一人の黒服を見つけた瞬間、喧嘩を吹っかけたくなった。
後先なにも考えずに………ぶっちゃけ言うと一人くらいなら勝てるかと思ったんだが、この様だ。
身体が動かない程度には殴られた。
全く、カッコ悪いぜ。
あっちの赤司には「なにしてるんだ、馬鹿。」と怒られちまいそうだけど、でも、小さいころに憧れたヒーローみたいな気分になっちまったんだよ。
「…お前は何がしてぇんだよ。」
「おや、まだ喋れるのかい?」
暗闇に映えるオッドアイは不気味で仕方ない。
こいつは、人じゃない。
きっと、人としての心なんて一切持ち合わせてないんじゃねえかと思うくらいに、その瞳からは冷酷さしか見えない。
「……君のこんな姿見て、なまえの歪む顔が楽しみだ。」
「何を言ってんだ、お前。」
「……君がこんな目に遭うのは、僕のなまえのせいだからね?」
僕の…?その発言に不信感を覚える。余りにも堂々としすぎている彼の発言に、俺が口を出さずに居られるわけがない。
「……みょうじはお前のものじゃねぇだろ!」
「いいや、僕のものだよ。」
そう言い切った奴の顔は言葉とは裏腹に嘲笑が消え、俺のことを一睨してきた。どうやら、気に食わなかったらしいな。
けど、それが事実だろ。今のみょうじはお前のことなんか眼中にねぇよ。
「ごほっ、」
そう言ってやりたかったのに、もう声が出せそうにない。
口内は鉄の味しかしない。
もう一度思いっきり蹴られて、赤司のわけのわからない言葉を最後に、俺は意識を手放した。
「彼女は帰ってくる。嫌でも、僕の元に。」
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