24、目見得
「なになに?どういうことっスか?!」
「な、なんで、赤司君が二人も!?」
「どうなってやがる!??」
黄瀬君や桃井さん、青峰君だけでなくクラスメイト全員がわけがわからず混乱してる。
それもそのはずで、こうなると予想していた私ですら、この事態に付いていけないのだから。
征ちゃんと赤司君。二人を引き合わせてしまったのは紛れもなく私の存在だった。本当は出会うべきではなかったのかもしれない二人を。
「……なまえは僕のものだろう?」
「ち、違う……私は物じゃ無い!勝手なこと言わないでっ!」
ずっと言いなりだった。征ちゃんを信じる事しかできなかった私が、生まれて初めて征ちゃんに盾をついた。
あなたに対して反抗的な態度を取る私。半年前なら想像すらできなかったの。
「なまえも言うようになったね。」
かつかつと征ちゃんが目前まで近づいてきて、私に触れようと差し伸ばしてきた手は赤司君によって止めれる。征ちゃんから庇うように私の前に立って、無言の赤司君は平然としているのだけど、オーラからは闘争心を感じた。
「君がもう一人の僕か。」
『初めまして。』
「単刀直入に言おう。なまえを返してくれないか?」
『断る。』
征ちゃんの手首を掴む赤司君の手からはぎりぎりと音が聞こえそうで、もう片方はしっかりと私と繋いだまま。私も何があっても離れないよう掌に力を入れた。
「どうせ僕の身代わりなんだろう?」
『関係ない。今は俺の恋人だから。』
また救われてる。
赤司君のまっすぐ過ぎる言葉に私は何度助けられただろうか。
広がる彼の背中は誰よりも逞しくて、いつでも私を守ってくれる。
……征ちゃんと別れた後、私は子供みたいに泣きわめいたし、後悔ばかり引きずった。あなたと過ごした日々は幸せばかりだったから、手放せなくて、私には必要不可欠な時間で、でも、それもやっと全部過去になった。
やっと前に進めたんだ。
そして、私はこの人のそばに居ると決めたから、もう何があっても揺るがない。
「……まあ、威勢のよさだけは認めてあげるよ。……でも、僕に逆らうやつは許さない。」
征ちゃんの開眼するオッドアイは今までにも何度も見たことあったけれど、その雰囲気に恐怖を感じる。
人を見下す言い方、自分のやることに絶対従わせようとする姿勢。この人は私の初恋の人、確かに私が好きだった赤司征十郎そのものだった。
「……こんなところにいたのか赤司!!探したのだよっ!!」
修羅場と化した教室の、緊迫した空気を壊したのは新たにやってきた彼の存在。征ちゃんの幼馴染の緑間君。
「おや、真太郎?何しにきたんだい?」
「何じゃない!担任がお前の事を探してる!何故、違うクラスの俺がこんなにお前のことを探し回らなければいけないんだっ!!」
「すまないね。今行くよ。」
赤司君の手を振りほどいて、「また来るよ。」と満面の笑みを私に送ってきた征ちゃんに違和感を覚える。
あの笑顔は何か企んでる時の顔。三年近くも付き合っていれば、なんとなく表情の区別はつくものだ。
このまま平穏には終わらない。それは確実な気がする。
征ちゃんが教室を出て行った後、緑間君と夏祭りぶりに顔を合わせた。
久しぶりとお互いに声を掛け合ったけど、あのお祭りの日、何も言わずに逃亡したせいもあって彼と対等になるのは気まずい。
「……一つ、忠告だけしておく。そいつと付き合うのはやめとくのだよ。」
「どうして?」
「いつか……いや、なんでもない。それでは失礼する。」
緑間君の言いかけた言葉の先を気になりはしたものの、私はそのまま流してしまった。
緊張から解放された室内の誰もが私と赤司君に目を向ける。周りには征ちゃんとの会話で何が起こってるのか大体把握されただろうし、何を思われているのかも予想が付く。他人に何を思われようと気にしない質だけども、居心地の悪さを感じる。
「はぁー緊張した!私は関係無いのに!!」
「てか、赤司っちが二人とか勘弁してっ!!!」
「おい!あれがドッペルゲンガーってやつなのか!?」
『お前ら落ち着け。』
だけど、みんなは変わらなかった。
冷静でいられる赤司君がおかしいのだと、三人とも変わらず笑っていた。私を非難しないで、いつも通り接してくれる。
いくら赤司君は良いと言ってくれても、普通であれば最低だと蔑まれても無理はない話なのに。
でも、黄瀬君と青峰君はともかく、桃井さんにだけはこうなってしまう前に話したかった。
「……なまえちゃん、大変だったんだね。」
「黙っててごめんね。」
「ううん。少しびっくりしたけど、でも、赤司君とあの人全然違うもん。」
「私はあっちの赤司君は苦手だなー!」と桃井さんにしては珍しく苦笑を浮かべて、「だからこそ赤司君となまえちゃんの幸せを願ってるよ!」と、「応援してるよ!」と、彼女の暖かさにも私は何度も支えられてる。
「俺もあっちの赤司は嫌いっスねー。」
「俺もだな。なんか、いけ好かねぇヤローだぜ。」
「だから、赤司っち負けないでね!なまえっちのこと離しちゃダメっすよ!?」
『わかってる。寧ろ、一生離すつもりないよ。』
黄瀬君が「それってプロポーズっスか!?」なんてニヤニヤしながら言ってくるものだから、例のごとく黄瀬君にだけは厳しい赤司君が発動して、私たちの間はいつのまにか笑顔でいっぱいになっていた。
(………いつか、自分自身で全てを壊す日が来る。そんなこと少しも思わなかった。)
「……僕を素直に選ばなかったこと、思い知らせてあげる。」
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