22、お揃い




次の日、電車で20分先まで行くことになった。目的は映画を見るために。

私の見たいものでいいと言われたのでお気に入りの続きものにしてしまったのだけど……赤司君は内容を理解できているか心配していると案の定彼は隣でウトウトしていた。
映画館を出て、申し訳なさそうにする彼に私は笑みしか出てこないの。


『……すまない。俺、所々眠ってしまった。』

「ううん。平気だよ。」



ぐっすり安眠していた私と比べ、彼は昨晩一睡もできなかったそうだ。
少し寝癖がついている髪。うたた寝する赤司君の姿。完璧な赤司君の無防備なところを見せられて、確かに私は彼にとって特別であるんだと思わせてくれる。


『…みょうじの前では格好つけていたいのだが、どうしてだろうな。中々上手くいかない。』


「でも、それがありのままの赤司君でしょ?」


私は今ここにいる赤司君が大好きだよ。なんて言葉が勝手に出てきて、言った後に照れてしまった。

どうしても慣れない。好きっていう事も。手を繋ぐことも。

なにより、伝えなくても赤司君は私を大事にしてくれてるってことがわかるのだけどね。
征ちゃんの時には何度も感じた。
人との絆が目に見えないと不安になる私の悪い癖も、赤司君の前では消えてしまう。







その後は、近くのファミレスでお昼ご飯を食べて、本屋にいって、いくつかお店も回った。レディースの洋服屋さんでは、女兄弟のいない赤司君は珍しそうにしていたのだけど、彼なりに私に似合うものを選んでくれた。できることならば、彼の考えたコーディネートを一式買いたいけど、そんな財力どこにもないから、記憶に焼き付けておこう。


私のために何かをしてくれる恋人の存在に擽ったい気持ちになる。

私もなにか、彼にしてあげたいな。

















『…一日はあっという間だね。』

「うん……。」



時間を巻き戻せたら、今日という日を何度でも繰り返したいのに。でも、出来ないからこそ赤司君と過ごす時間をとても愛しく感じるんだ。

自宅が見えてきたところで、赤司君と繋いでいた手が解かれた。明日は日曜日。次会えるのは月曜日。

今日と明日では、きっと時間の進み具合も全く別物になるんだろう。
早く明後日になってほしい。


『……みょうじ、手出して。』

「?」


言われたままに手を差し出して、なんだろうと思っているうちに、彼はポケットから取り出したブレスレットを付けてくれた。

それには赤のストーンに、ハート型のチャームがついている。この色は赤司君を連想させる色。


「これ、」


『似合うと思って。』


「安物ですまない。」と彼は謝るのだけど、値段になんの価値もない。赤司君が贈ってくれたものならば、なんだって大切にするよ。今日からこのブレスレットは、私にとっての宝物になるのだ。


「ありがとう。…実は私からも赤司君に贈り物があります。」

『?』



がさがさとカバンの中から小さな袋を出して、赤司君に渡した。
開けていい?という問いに、いいよって笑顔で返す私。



『……ブレスレットか。』

「うん。」



黒のレザーのシンプルなもの。

袋から出すと、早速、手首に付けてくれた。

絶対に赤司君に似合うと思ったし、彼はアクセサリーを好まないイメージがあるけれどこれならば使ってくれるかなと。

トイレにいくと言って赤司君と離れた隙に購入したのだけど、まさか赤司君も同じようなこと考えてたなんて流石に想定外だった。



『気に入ったよ。ありがとう。』


「…でも、どうせなら、お揃いにすればよかったかも。」


『そうか?これもある意味お揃いだと思うよ。』


「そうだね。」


赤司君と目があって、そこで会話が止まる。

なんとなく雰囲気で察しがつく。自然と私たちは唇を重ねて、触れるだけのキスをした。
その後、私も赤司君もやっぱり照れ臭そうに笑ってしまう。



『…それじゃ、また明後日。』


「うん。」


どきどき煩い心臓を抑えながら、帰って行く彼に手を振った。


手首には、彼にもらったものがキラキラと輝いてる。






(君と過ごす時間は、いつだって、私を幸せにしてくれた。)
















「おはよー!なまえちゃん!」

「おはよう、桃井さん。」


ようやくやってきた月曜日。心踊らせながら登校したのだけど、まだ赤司君は来ていなかったみたい。


「あ、そういえばね、明日転校生が来るんだって!しかも、3人も!」


「こんな中途半端な時期なのに?」


「うん!京都の洛山高校ってところからだって!」


「え………?」





 

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