20、両想い




『………ということで、俺とみょうじは付き合うことになった。』



その日のお昼休み。桃井さんに黄瀬君。それから、黒子君と青峰君も集めて屋上でお弁当を食べることになった。

友達に公表するのは、やはり気恥ずかしいもので。誰とも目を合わせることができなくて、横にいる赤司君の顔を眺める。相変わらず、整っていて、かっこいいの。


赤司君の発言のあと、みんながなぜか用意していたクラッカーの音に包まれた。随分前からこの時を待っていたのだと、桃井さんも黄瀬君も、黒子君もみんな笑っている。


「……やったね、なまえちゃん!やっと言ってくれたね!!!」

「おめでとうございます。」

「ありがとう、みんな。」



彼と想いを通じ合うことができて、誰かに祝福されるのは、生まれて初めての経験だ。自然と私も笑みが零れる。

中学時代ももちろん応援してくれる親友はいたけれど、ここまで心から祝ってくれる人たちはいなかった。私自身、征ちゃんのことしか見ていなかったし。

今ならわかる。好きな人と過ごせることが全てじゃない。だって、あの頃よりも私は満たされてるの。

赤司君に出会えたことが一番に変わり無いのだけど、桃井さんに黄瀬くんに、それから黒子君も青峰君にも出会えてよかった。
言葉には出来なかったけど、この気持ちはいつも心にしまっておこう。



「まさか、この二人がくっつくとは思ってもみなかったぜ!」

「え、青峰っち気づいてなかったんスか!?どんだけ鈍感なんスか!?」

「うるせーよ!で、どっちから告白したんだ!?」

「俺も気になるっス!」

「僕もです。」

「私も!!!」


質問攻めにあって、オロオロする私に代わって、「俺からだよ。」と、赤司君は平然と答えてくれた。


「えー意外!俺はてっきりなまえっちからかと思ってたっス!だって、なまえっち、入学当初から赤司っちに恋する目してたっスもん!」



黄瀬君の洞察力に感心する反面、またしても答えに詰まってしまう。あの頃の私はそんなにも分かり易かったのか。

私が見ていたのは、赤司君じゃなくて、赤司君に似たあの人…。


『…俺のが先に惚れていたよ。みょうじには想い人がいた。だから、略奪したまでだ。』


「「「!?」」」

「ちょ、それどういうことっスか!!?」

「まじかよ!スゲーな赤司!」



爆弾投下で、桃井さんも、あの黒子君も、そして、私自身もびっくりした。
略奪されたの私??
ある意味合っているのだけど、みんなにとって気になる発言のあと、赤司君から説明もなく、すぐに予鈴がなって解散になった。














放課後。

部活動がない日は桃井さんと一緒に帰るのだけど、「私のことはいいから!」と遠慮してくれた。桃井さんにはきっちり今までの経緯を話したかったのだけど、またの機会にしよう。
赤司君と二人きりの帰路。何も言わなくても、当たり前のように彼は隣にいる。

もう友達じゃない。正真正銘、恋人同士なんだ。


『送って行く。』

「でも、赤司君の家、方向逆だよね?」

『……少しでもみょうじと一緒に居たいんだ。』


赤司君の耳が赤らんでるのを見つけて、私までつられて頬に熱を持つ。
きゅんと心が締め付けられる。大事にされてるってひしひし伝わってくる。


「……ありがとう。」


少しでも私の気持ちが届けばいいなと思って、二人の僅な隙間を埋めるために手を繋いだ。



苦しくて胸が裂ける思いも何度もした。征ちゃんにとってのいい子になりたかった。愛されてるって確認しないと不安だった。
でも、あの3年間は赤司君に出会うためにあったんだ。


背伸びしなくていい。無理しなくていい。これが、恋愛するってことなんだね。

当たり前のことを今更ながらに知った高校一年生の秋。

(日を追うごと、どんどんあなたを好きになる。)






気づくはずも無い。
もう始まっていたんだ。
カウントダウン。



“なまえは一生僕から離れることはできない。”


「だから、迎えにいくよ、なまえ。」



 

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