18、言の葉





「俺と付き合おう。」と、そう問えば君は黙り込んで、予想通りの反応なのだけど、決してみょうじを困らせたいわけではないから。



『……今すぐ返事は求めないよ。だから、考えといて。』



「わかった。」とそれだけ呟いた君と暫く景色を眺めてから彼女を家へと送り届けた。

みょうじの横を歩いている間、平常心を保ちつつも、気を緩んだら緊張に飲まれてしまいそうで。




『……それじゃ、次は学校で。』

「うん。」

『おやすみ。』


「お、おやすみ。」


みょうじはわかりやすい。俺と目を合わせようとして、けど、どうすればわからない様が手に取るようにわかる。
そんな姿も素直に可愛いと思ってしまう俺は中々に重度なのだろうか。


帰り道、いつから彼女のことを恋愛対象で見ていたのか…考えてみたけれど、明確な答えなど出てこなかった。
誰かに想われることも、誰かを想うことも滑稽だと見下していた自分が、まさか患うことになるとは。


『……まるでどこかの小説みたいだな。』


恋敵は自分に似ている人間。


ポケットから取り出した写真に映るのは

みょうじと、

俺ではない…もう一人の赤司征十郎。






















「…はぁ。」

いつもより長くお風呂に浸かってしまったから若干逆上せ気味のまま、私はベットに倒れこんだ。



−−−−−−−−−『好きだ。』『付き合おう。』


考えないようにしても、赤司君の台詞を、表情を思い出してしまう。

征ちゃんのときは私からだったし、告白を受けたのは生まれて初めて。まだどきどきしてる。


しかも、あの赤司君が私にだなんて夢なんじゃないかなと思って頬を抓ってみれば、やっぱり痛みを感じた。


……赤司君は知っていた。征ちゃんのことを。
私の未熟な人間性を見ても、それでも、好きだと言ってくれたんだ。



私は、どう答えればいいんだろうか。




わからない。












ブーブーと、静かな部屋にバイブ音が鳴ったものだから、びくりと体を揺らした。





「……桃井さんからだ。」



あのお祭り以来連絡をとっていなかった彼女からの電話。
あまり会話をする気分にはなれないけど、でも、桃井さんと話せば少しは元気になれるような気がする。



「もしもし!なまえちゃんっ!…ごめんね、夜遅くに…。」


特に用は無かったのだけど、私のことを心配していて、でも、どのタイミングで電話すればいいのかわからなくて、今になってしまったのだと。


「なんか…しつこくてごめんね?」


「そんなことないよ。ありがとう。」



返信を怠っていたのは私だというのに、彼女は優しすぎるね。私の高校生活は本当に人に恵まれたなと思い知らされる。


「…やっぱり元気ないね?」

「………。」



無理に話さなくていいよと、そんな彼女の声に甘えてしまう私。


すぐに話題は変わって、桃井さんは黒子君のことを話し始めた。つい最近、青峰君も一緒だけど買い物に出かけたのだと、電話越しに彼女の幸せが伝わってきて、桃井さんは本当に黒子君のことが大好きなんだなって。

彼女のそんな姿が少しだけ羨ましい。





「……ねぇ、桃井さん。」

「なに?」


「人を好きになるってどういうことなのかな。」


「え……?」



唐突すぎる私の質問に一瞬間を置いたけど、すぐに応えてくれた。



「…うーん。きっとさ、その人に会いたいって思ったら好きなんだと思うよ。」


「………。」


「私、今すぐでもテツ君に会いたいもん!…なまえちゃんは赤司君に会いたいって思わないの?」



……私が、赤司君に?



悩まなくても、答えは簡単に見つかった。

夏祭りを楽しみにしていたのも、

学校に行くのが苦痛ではなくなったのも、
あの席で過ごす日常が心地よく思えたのも。

理由はひとつしかない。



「……思う。」




会えると嬉しいなって、今日だって本当は気まずさの中でも、そう思ってた。



真っ直ぐな人の言葉はどうしてこうもすんなりと心に入って行くんだろう。




「なら、難しく考える必要ないよ!せっかく好きな人がそばにいるのに、悩むなんて時間が勿体無い!」


「うん、」


赤司君と私の事は相変わらず勘違いしたままだけど、桃井さんは詮索するようなことは一切なくて、きっと私が話すのを待っているんだと思う。


もう少ししたら今までのこと、話したいな。彼女になら話せる。


その前に、私は言葉を伝えなきゃいけない人がいるから。

夏休みが終わるのももうすぐ。


(再び季節が変わるとき、私は君に、)




 

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