14、夏祭り
変わったばかりの夏服に慣れてきた頃、全生徒が心構えていた期末テストも終わった。
「赤司っち!なまえっち!桃っち!俺…やったっス!!!補習回避したっス!!!」
「おめでとう、黄瀬君。」
「やったね!きーちゃん!」
だけど、赤司君だけは「テストの結果を見せて。」と彼に手を差し出して、黄瀬君は自信満々に全教科の点数が載っているプリントを渡した。「こんなに高得点なのは人生で初めてだ!」と、「赤司っちのおかげっス!」ときらきらした笑顔を向けている。それと同時に赤司君はため息を吐いた。
『…俺があれだけ教えて、最高35点…。黄瀬、今度はもっとスパルタでいこうか?』
「な、なんでぇえ??!」
私と桃井さんもその用紙を覗き込んで、あまりの悲惨さに呆れそうになる。あの日だけでは黄瀬君に青峰君に全教科教えるのは困難だったので、テストの当日まで三人で放課後残って勉強したと言っていたのに。
隣のクラスの青峰君も黄瀬君と大差ない結果だったそうで、赤司君の苦労を思うと居た堪れない。
まあ、なんだかんだ全員夏休みを無事に迎えられたし、よかったのかな。後は思う存分楽しむだけだ。
「……ということでさ、夏祭り行こうっス!」
黄瀬君がいないと、こうやって先陣切って物事を進めてくれる人もいないし、彼にも感謝しなくちゃね。
「……ねえ、真太郎。敦。
夏休み、東京に行かないか?」
「なんでー?」
「どうしたんだ、突然。」
「いや、会いたい人が居てね。」
それから、あっという間に2週間が経って、夏祭りの日がやってきた。休みに入り、毎日ごろごろしてばかりだったから今日くらいは沢山歩かないとな。
お気に入りのサンダルを履いて、久しぶりに外に出た。夕方だから日差しは強くない。丁度いい気温だ。
……赤司君に会うの楽しみ。いや、みんなに会うの楽しみ。
待ち合わせ場所は駅前。今日のお祭りは中々に大型だから、駅に行くまでに浴衣姿の女の子を何人も見て、桃井さんも浴衣を着ていた。ピンク色の花柄で、これぞ女子力というやつだね。
「久しぶり、なまえちゃん!」
「久しぶり。桃井さん、すごく可愛い。」
もともと彼女は美人なのだけど、服装がそれを更に引き立たせている。それも女の私ですら見惚れてしまうほどに。「ありがとう。」と笑う彼女に私も釣られて笑った。
「おーさつき似合ってんじゃんーあれだな、馬子にも衣装?」
「ちょっと大ちゃん!」
そういえば、先ほど知った事実なのだけど、桃井さんと青峰君は幼馴染らしい。
でも、横にいた黒子君が「いいえ、本当によく似合ってますよ。」と微笑むものだから、桃井さんの頭からは青峰君の言葉は消えてしまったようだ。
今はまだ片思いだけれど、彼女は本当にいい恋愛してるんだな、って少し羨ましく思うよ。
それから、少し遅れて赤司君と黄瀬君もやってきた。黄瀬君はさすがモデルで、ストライプの浴衣がよく似合ってる。
「みんなー久しぶりっス!遅れてごめんー!」
『すまない…』
「みんな、今来たばかりだよ。早く行こう。」
人数が多いのと人混みもあり、2人ずつ3列に並んで歩いた。
先頭は青峰君と黄瀬君で、二番目が桃井さんと黒子君。
そして、私の隣は…赤司君。
以前もこうして二人で歩いたことあるけど、月日は経っていないはずなのにあの時とは随分変わった気がするの。
桃井さん、黄瀬君たちは盛り上がっているのに、何故だか私たちには気まずい空気が漂っている。無言が続く。いつも何を話していたっけなと私が思考を巡らせている間に、先に沈黙を破ったのは赤司君だった。
『…俺、みょうじに会えるの楽しみにしてたよ。』
久しぶりに赤司君に会って、久しぶりに笑う赤司君を見た。しかも、照れくさそうに。
ずるいな、その台詞。嬉しく思わないわけがないよ。
「私も…。」
ああ、胸が苦しい。
(止めても、止めても、止めても、止まらない。それを何と呼ぼうかな?)
『あのさ、はぐれたフリして少しだけ二人で回らないか?』
「う、うん。」
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