10、勘違い
「あれー?赤司君、なまえちゃんと一緒に帰ったんじゃないの?」
『桃井か。そのつもりだったんだがな…』
みょうじは誰かからの着信に驚き、慌てて何処かにいってしまった。残された俺はもちろん彼女を追いかけようとした。けれど、担任に雑務を頼まれてしまい、調度、今終わったところだ。
プリントをまとめている間も先ほどの出来事を思い返していたが、真相が余計にわからない。
でも、見間違えではない。彼女宛に電話を寄越したのは、確かに「赤司征十郎」だったのだ。
同姓同名というやつなのかと考えがまとまり始めて、桃井の発言のせいでまた訳がわからなくなった。
「それにしても、一緒にプリクラとか仲良しだよね!赤司君そういうの嫌いそうなのにっ!」
『は?』
「あ、私は二人が付き合ってるの知ってるよ!応援してるからね!」
『何を言ってるんだ…?』
「もう、赤司君までしらばっくれる気?隠さなくていいんだからっ!」
桃井が嘘をついている様子はない。みょうじが嘘をつくにしても理由が見当たらない。そもそも、彼女には想い人がいるはずだ。俺と誤解を招くような真似はしないだろう。する意味がない。
「…あの桃井さん、部活再開するそうです。行きましょう。」
「あ、黒子君!!!わかったよー!…それじゃーね、赤司君!」
『ああ。』
再び、一人教室に残された俺もすぐに帰ることにした。一度職員室へ寄って、そのまま昇降口に向かう。
いつまでも考えていたって答えなど見つかるはずがない。事実を知ってるのは、みょうじ以外いないのだから。本人に聞くのが一番手っ取り早い。
外に出てみると、夕方から大雨だと天気予報通りの空があった。もちろん傘は持って来ている。じめじめした空気が辺りに漂っており、ザアザアと雨音が嫌でも耳に入る。
『…そういえば、彼女は傘、持っていただろうか。』
朝見かけたときは持ってはいなかった気がする。だけど、まさかこの雨の中を傘も射さずにウロついてるはずもないだろう。
そう思ったが、すぐに予想に裏切られることになる。
『…みょうじ、こんなところでなにしてるの?』
正門前で座り込んでいる彼女を見つけた。シャツはびしょ濡れで透けており、目のやり場に困る。女性の下着…見ないように気をつけなければ。
とりあえず、少し屈んで、半分、彼女に傘下を分けてやった。
『そのままだと風邪を引いてしまう。』
もしかすると、俺が校舎で雑務を行っている間、彼女はずっとここにいたのかもしれない。
いつから降っていたかはわからないが、この雨の中ずっと、
誰を待っているのだろうか?
反応のなかった彼女はようやく顔を上げて、俺のことを見上げた。
「…征ちゃん…本当に来てくれたんだ…」
冷え切った彼女が俺に抱きついて来た。
(その眼差しが俺に向けられることはないと知っていたよ。でも、)
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