09、落し穴
「これ俺の写真集っ!!昨日発売したんス!みんなにプレゼントっス!」
『誰が好んでお前の写真集を欲しがるか。』
「相変わらず、ひどいっスね…!」
「あ、でも表紙のきーちゃんかっこいい!」
「でしょでしょっ!?」
赤司君、桃井さん、私の順に黄瀬くんの写真集が手配りされた。ご丁寧にサインまで入ってる。有難く貰っておこうかな。
何事もなく校外学習も終わり、そのまま成り行きで4人で過ごすことが多くなった。
この二人が休み時間の度に私と赤司君の席へとやってくるから、悲しむ暇なんてなくなってしまったの。
誰かがそばにいるだけで、心強い気がする。それに気がつかせてくれたのは、他の誰でもなく赤司君だ。彼とはあれ以来、気恥ずかしさが拭えない。なんでキスされたんだろうな。瞼にだけど。
まあ、赤司君自体はあまり気にしている様子はないし、私もそうしよう。
もう少しで、征ちゃんを忘れられる。
「ねえ、なまえ。僕となまえはね、一生離れることはないんだよ。」
「うん。」
「お前が僕から離れることは許さない。……例え僕が手放そうともね。」
「え?」
「なんでもないよ。」
帰りのHRが終わった。
部活動に力を入れてる学校であろうと帰宅部には関係のないこと。今日もさっさと帰って、引きこもりだ。たまには親の手伝いでもしようかな。それとも、溜まっているテレビ番組の消化をしようかな。今まで塞ぎ込んでた分だけやることはある。さて、どうしよう。
私が席を立つと、それを待っていたように赤司君も立ち上がった。
『ねえみょうじ。一緒に帰らないか?』
「いいよ。」
自然と即答していて、でも、断る理由なんてどこにもない。
赤司君のこと好きとかじゃなくて、ただ安心するの。この人は私の道標みたいだ。
次に誰かを好きになるなら、やっぱり、こんなひとがいい。
だけど、まるで私たちを邪魔するかのように着信が入って、ポケットに入ってるものが震えてる。
誰だろうか?
それを取り出して、確認してみれば、私は喫驚するしかなかった。
「え…」
どくん、どくん、私の心臓は大きく高鳴る。
数秒硬直して、それを不審に思った赤司君は私の手の中のものを覗き込んできた。
『……なんでみょうじのに俺から着信が入ってるんだ…?』
「あっえっとこれは………ごめん。赤司君、私先に帰る!」
『一体、どうしたんだ、』
赤司君には教えられない。
教室を飛び出し、少し離れた場所で、不在着信を確認した。
画面に映ってる、その名前は「赤司征十郎」
どうして今更?
別れたことに耐えきれず、何度か電話してしまったときは繋がりすらしなかったのに。
どうして?
やっと忘れられそうなんだよ。
なのに、征ちゃんと一言でも交わしたら、戻れなくなる。
もう一度、彼からの着信が鳴って、今度こそ通話ボタンを押した。
「…征ちゃんっ。」
「久しぶりなまえ、ねぇ会いたい。」
自由奔放で、傍若無人で、ああ、私の知ってる、私の好きな人だなって思った。
(どれだけ落されても、私は貴方を嫌いになれない。)
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