「みょうじさん、最近機嫌いいよね〜」
そんなことを上司に言われた。家に帰れば彼が待っているのかと思うと、仕事の進歩も日々効率よくできてる気がする。恋愛とは、想像以上に、自身のモチベーションに直結してるみたいなの。
この前教えてもらったこと…趣味はパチンコと競馬で、5人の弟がいること、アイドルの幼馴染がいること。トレードカラーは赤色。
知れば知るほど、もっと近くに行きたいと思ってしまうのは、彼がまだなにかを隠してる予感があったからなのかな。それとも、私のただの欲張りなのかな。
測りきれない彼の心は、どこかまだ埋もれているような気がしてしまう。きっと、気のせいだと思うけども。
「……あれ、」
「やっほー!迎えにきちゃった!」
最寄り駅の改札を抜ければ、そこには赤いパーカの姿があった。今日は残業をしてしまったせいで、もう空は紫かかっている。じきに真っ暗になることだろう。
「お疲れ様」と、よしよしと松野さんに頭を撫でられると疲労感が消えていくから、その手はなにか魔力でももっているのかと疑ってしまう。
そして、なぜここにいるかといえば、松野さんはパチンコに行った帰りで、ちなみに大負けしたそうだ。
「なーんて本当はさぁ、早く会いたかったからだよ」
そういう台詞をさらりと言えてしまうところ、さりげなく手を繋ぐところはさすがの大人の余裕で、私は面映ゆいあまりに目線を逸らした。
「…わ、私も、」
「んー聞こえないなぁ?なーに?」
意地悪く笑う彼に、ますます目を合わせられなくなる。これは絶対に顔赤くなってるし。
いつもいつも松野さんから歩み寄ってくれて、私はそれに頼りきり。たまには私から一歩踏み出す必要はあるとわかってるのだけども、その一言を発するのも私は一苦労だ。
耳貸してくださいと頼めば、嬉しそうに彼は少し屈んでくれた。
「好きです…」
少しでも長く彼と手を繋いで居たくて、遠回りして帰宅していると、ついに夜空になった。故郷の星を1人で見るのが好きだったのに、都会の数少ない星が今は一番好きだ。それは松野さんのせい。
「いつかさ、みょうじちゃんが生まれ育った町、行ってみたいなぁ〜」
「私も松野さんに知ってほしいです…!」
私の好きなものもたくさんたくさん知ってほしい。
友達とも、家族とも違う。こんな気持ちになるのはやっぱり松野さんだけで、彼にはいつまでも隣で気楽に生きて、笑っててほしい。仕事に行く前には、おはよう。帰ってきたら、ただいま。寝る前はできればお休みをこれからも言い続けたい。これは、私だけの特権なのだと、今、目の前にいるのが、松野さんの全部だと信じて疑わなかった。
笑顔の裏側の闇に気づかないまま、いつの間にか松野さんに出会って2ヶ月が経とうとしてる。
「……忠告だけど………あまりおそ松兄さんに深入りしない方がいいから。
このままだと、アンタ、いずれ傷つくことになるよ、」
たまたま鉢合わせた、松野さんの弟、一松さんの言葉は妙に心に刺さった。
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