おそ松兄さんはいつもふざけたように笑ってる。それは昔から変わらない。その変わらなさが逆に僕ら兄弟を心配させていたとはきっと本人は知らないことだろう。
久しぶりに6つ子が顔を合わせたのは、僕らの幼馴染の、それからおそ松兄さんの恋人の命日であるからで、トト子ちゃんも後から合流することになってる。
今でも思い出すのは、幼いおそ松兄さんと彼女が2人で悪巧みをしていてこと。よくチョロ松兄さんに怒られてたこと。似た者同士の仲睦まじい2人の姿。
8年前のこの日から、おそ松兄さんの心はずっと日陰の下にいるような気がしていた。
「……俺さ、今、付き合ってる人いるんだ。」
線香を焚いて、墓碑を見つめるおそ松兄さんは、亡きあの人に問いかけるように呟いた。
「お前らにも話さなきゃいけない。」
くるりとこちらを振り向き、僕ら一人一人の顔を確認する。
僕は最初は反対だった。あの子を次の相手に選んだおそ松兄さんの神経は正直理解できなかったし、なにより亡き彼女を裏切るに等しいってことが腹立たしかった。
「その子さ、すっげー危なかっしくて、すぐ人に騙されちゃいそうで、それくらい素直で、いい子で料理もできてさぁ〜あいつとは正反対なんだ、でもさ、」
おそ松兄さんは再び姿勢を戻し、みょうじ家の墓と書かれた灰色の石を懐かしそうに見つめる。
「……同じ顔なんだ。」
それを聞いて、僕以外の兄弟たちは驚きを隠せないとそんな顔をしている。
「…同じだけど、やっぱりお前とは全然違くて、そんでもってさ、俺、本気で好きになっちゃったんだ。あの子のこと幸せにしてあげたいんだ。
だけど、お前のことは絶対忘れない。それだけは約束するから。」
彼女の葬式の日も涙を見せなかったおそ松兄さんが人前で泣くなんて、生涯できっとこの一度きりだけ。
彼女が事故を起こしたのは不甲斐ない自分のせいだとおそ松兄さんはそう言っていた。誰が聞いてもそんな事実一つもなかったのに。
この人は本当は不器用で、実はいろんなこと考えて悩んで、やっと見つけた答えがこれなのだろう。
許さないと、一生償えと、誰がそんな罵声をおそ松兄さんに浴びせるだろうか。そんな人間、ここには1人もいない。
「なーんでお前ばっかりそんなにモテんのかなぁ〜本当にケツ毛燃えるわ。だいたい同じ顔ならここに6人ばかしいるしね。そんなの珍しいことでもなんでもないじゃん。
……勝手に幸せになってろよバカ!」
チョロ松兄さんのつぶやきにそうだそうだと一斉に声が上がる。墓地なんだから、騒いじゃだめでしょなんて言い出す輩はここにはいない。
「お前ら、ありがとうな」
反対だったのは最初だけで、こんな真剣なおそ松兄さんの姿みたら、僕も応援するしかないじゃん。
それでさ、僕にも大事な人ができた時、おそ松兄さんを見習って、大切に想っていけたならいいなと密かに抱いたのは誰にも秘密。
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