「やっふぅうー!!!」
今日は最強ハッピーデーと名付けようと思う。なんでかって、そんなの競馬で大当たりしたからに決まってるじゃーん。デブ猫のせいでもやもやさせられたけども、まあ、あれよ嫌なことがあったあとは良いことがあるってのは、世界の理の一つなんじゃない?!というわけで、数枚だった万券が倍以上に膨れ上がった財布の中を何度も何見返す。
あーお金があるって幸せだね。
「たっだいま〜」ってスキップでリビングへと向かう。電気がついてるってことはなまえちゃんがいるってことで、早く今日の成果を報告したくて、でも、そこにはソファーに座って俯くなまえちゃんがいた。
「…どうしたの?」
すでに22時を回ってるし、外は真っ黒。実はといえば少し飲んできたから酒臭い俺に、なまえちゃんはいきなり抱きついてきた。俺としてはこのまま襲ってやってもいいんだけど、この雰囲気でさすがにできないし。だって、俺ってばめちゃくちゃ空気が読める男だからね。
「……あのね、イッチくんがいなくなっちゃった…。」
「あ、」
「探したんだけどどこにもいなくて、事故に巻き込まれてたらどうしよう…!」
なまえちゃんが帰宅する前にあいつは必ず帰ってきてる。だから、一松がしょっちゅう外出してるなんてなまえちゃんは知らない。大丈夫大丈夫って、頭を撫でたところで、今のなまえちゃんに効果なんてなかった。
「ほーら、泣かないの。」
「う、ぅ、」
ほんの数分前まで一松なんてこのままどっかいっちまえば良いと思ってたのに、それは彼女のせいで心変わりする。
好きな女の子に泣かれてしまっては、俺が引くしかないじゃん。一松のこと許してやるしかないじゃん。できるかわかんないけど。
「俺、探してきてやっから、ちょっと待っててよ。」
「わ、私も行く!」
「だめでーす!女の子の夜の出歩きは許しませーん!」
触れるだけのキスをして、それからぽんぽんと頭を2、3回撫でた。やるって言ったらやる男ですから俺は。なまえちゃんもきっとわかっているのか、薄く笑った。
あーーもう可愛いなぁ。超絶にセックスしたい気分だけど、それは、一松を探し出してからでもいっかな。帰ってきたら、今度は違う意味でなまえちゃんのこと鳴かせたいなぁなーんて。
一松の行くところはなんとなく予想ついてる。だって、俺、長男ですから。弟たちの性癖から始まり、行動パターンも把握済みに決まってるじゃん。長男なめんなよ?!
「……一松、みーつけた!」
猫の一松が実家に帰ることはないだろうし、そうなるとあいつがよく行くのって路地裏のノラ猫の溜まり場。沢山ノラ猫がいようが、デブ猫のことは一目でわかった。まじ、デカイなこいつ。
「よいしょっと、」
一松は眠っているようで、起こさないようにそっとお腹から抱きかかえる。
「……あっ?………おそ松兄さんっ?!」
でも、身体が宙に浮いたことにより、一松は目を覚ましちゃって、案の定暴れ始めやがった。逃さぬようにと腕に力を込める。くっそ、重たすぎ。でも離すわけにはいかない。だって、約束を必ず守るのがカリスマレジェンドですから。
「……僕はもうこいつらとここで過ごすって決めたんだ!だから、離せっ!」
「むり。はい、家に帰るよ、一松くーん。」
「やめろっ!」
「………お前がいないってなまえが泣いてるんだよ、いいから黙って来い。」
一松が昼間言ったことは本当なのだと思う。なまえちゃんが好きってこと。それは、俺の一言で黙り込んでしまった一松の姿で、確信できた。あーまじかよ。こんな近くにライバルいたとか全然気づかなかった。しかも、今は猫だし。
別に遠慮はないのだけど、嫉妬とも違う、なんともいえない複雑な気分。
本当はその辺に捨てていきたい勢いだけど、彼女を愛おしく思うから、そんな非道なことできるわけない。全く、こんなの俺らしくないなぁ。
玄関のドアを開ければ、なまえちゃんは目の前に座って待っていた。一松の姿を見つけたなまえちゃんはほっと安堵の表情を浮かべ、デブ猫の頭をそっと撫でる。
「イッチくん、おかえり!」
「にゃあっ」
一松、ほら、お前の居場所はどうやらもうここに出来上がってるみたいだよ。
なんか悔しいなぁ。なまえちゃんにとって、一松も大事な存在になっちゃったとか、
やっぱり、妬けちゃうなぁ。
でも、猫を抱きしめて嬉しそうに微笑む彼女を見ていたら、しょうがねぇかって俺の口角も上がった。
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