「おそ松く、ん」

「んー今日も気持ちよかったよ!なまえちゃんのなか!」

「もー恥ずかしいから言わないでよー!」

「その顔、すっげーかわいいから、もっといじめたくなっちゃうんだけど。」



俺の腕枕で横になる彼女を見つめていれば、ほんのり赤くなるほっぺた。さっき散々したキスだけど、何度でもしたくなる。

息できないくらい、彼女の唇を塞げば、色っぽい音だけがこの部屋に響く。
あーでも、キス止まらなくなるとさ、さっき終わったばっかだけど、またシたくなっちゃうんだよねー。俺たちまだ素っ裸だしさー。

あれ、でも、なんかなまえちゃんの口、今日はちょっとかさかさしてんね。てか、あれ、ふわふわしてる。え、こんなに毛深かったっけ?
いつもはつるっつるで、すべすべな肌してるよね?

あれ、なんで、


「にゃぁぁぁ〜〜!!!!!」

「いってぇええー!!」


痛みとともに、意識ははっきりと目覚める。目の前にはデブ猫。毛を立たせて、なんかすっげえ怒ってるし。

は、俺がなにしたわけ?朝っぱらから騒がしいのは勘弁してほしい。つーか、気持ちよく寝てたのになんてことするんだ、このデブ猫は!俺の安眠を返せ!



「……おはよう、おそ松くん。もーまた喧嘩してるのー?」

「あ、おはよう、なまえちゃん、」


なまえちゃんは仕事にいく準備をすでに済ましていて、さっきのいい感じの雰囲気は夢だったのかと気づく。あー夢の中でいいからヤリたかったのに!きっと普段できないあんなことやこんなこともできただろうに。くそっ、邪魔されたことがさらに憎くなった。

「もう行ってくるね」と寝室を出て行こうとする彼女を追いかける。パジャマ姿に、鶏のトサカの様についた寝癖のまま。


「待って!…はい、いってらっしゃいのぎゅー!」


後ろから抱きついて、そのあとに触れるだけのキスをした。玄関を飛び出して、彼女がアパートの階段を降りる直前まで俺は手を振り続ける。最後にこちらを振り向いて、軽く手を振り返してくれたなまえちゃんを、こうして送り出すのももう何百回としてること。

なまえちゃんがんばって!って、俺は心の中でもう一度叫んだ。



「……毎日毎日、よく飽きないね。というか、鬱陶しい。」

「なんだと、デブ猫!」


卑屈な声を出す猫に、ふつふつと頭が沸騰するみたいになる。なまえちゃんが仕事に行った直後、日本語を喋り出すエセ猫め!いつかなまえちゃんにバラしてやるから覚悟しとけよ、このくそ猫。
もしも、なまえちゃんにこいつの正体がばれたら、彼女は一体なにを思うんだろうな。ま、なまえちゃんが好きなのは俺だし、別に一松は同じ顔の弟ってだけだし、関係ないけどね。


「つーか、おそ松兄さんは今日も引きこもるわけ?」


「え、今日は競馬に行くっていう大仕事があるし!」

「……またギャンブルかよ。」



はぁとため息をつく猫は、俺をいちいちイラつかせる。何か言いたそうな目は一点をじとーっと見つめて、その視線の先は何枚もの万札。

別にこの金、日払いのバイトで手に入れたものだし、俺も流石に万年ニートじゃないし!つーかなまえちゃんお金くれねーし!そこだけはしっかりしてる子だし!でも、俺のこと自由にしてくれる、超いい子だし!


「…あんたも、仕事したらどうなの?」

「んーまだ今はいいの!」

「何がいいわけ?なまえちゃん、朝から晩まで働いてんのに、あんたが何もしてないっておかしくない?」

「は?」


デブ猫はスイッチが入ったみたいに、ベラベラとしゃべりだした。人間だった頃に、こんな饒舌な一松を見たことあっただろうか。

いや、俺の記憶だと一度もない。


「だいたいさーあんたがしてることといえば、疲れてるなまえちゃんに迫ってさーもう少し彼女のこと気遣ったらどうなの?休ませてあげるべきでしょ。というか、料理の1つでも覚えたら?…家事くらいやれよ、ニートだろ。」


カッチーンってきた。いやいやいやいや、なんでお前にそこまで言われなきゃいけないわけ?俺たちこの関係で十分うまくやってけてるし。なまえちゃんだって、俺がいるから仕事がんばれるって言ってたし。もう同棲し始めてる数年経ってるし。今更そんなこと言われる意味がわからないし。なんなんだよ、こいつ。
「お前には関係ないだろ!」ってまさにこの言葉が1番当てはまるだろう!どうだ!


「…関係なくない!だって、僕もなまえちゃんのこと好きだからっ。」


「は?」

「にゃ、」

今、なんて言ったのこいつ?

お互い目を合わせて一瞬固まって、心なしかデブ猫の顔が真っ赤に染まって見える。言うつもりはなかった。そんな顔してる一松の姿が頭に浮かぶ。


そのあとに、鍵の開いてる窓を前足でうまくこじ開けて一松は外へと飛び出してしまった。

まじで、なんなの、これ。


すっげーもやもやするんだけど、競馬行けば、すっきりすんのかな。

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