「デカパン博士ー!」
「なんだすか?」
幼い頃よく遊びに来てた研究所。残念ながら今は懐かしさなんて全く感じないけど。
それよりも、弟の一松が猫になったのは、こいつのせいだってことはわかってる。ならば、元に戻す薬さえ手に入れば、あいつは人間に戻るわけよ。そうしたら、俺となまえちゃんのラブラブいちゃいちゃライフも元に戻るってことよ!
そう思いついちゃった俺ってば超頭よすぎじゃない!?
なになに、ゲス顔になってるって?いやいや、そんなことないよ。俺はいつだって、カリスマレジェンドのシンボルである爽やかスマイルだし!
だってさーなまえちゃんは俺が拗ねたところで猫を手放す気はないみたいだしさー。この前の喧嘩はあの後ラブホでセックス三昧したから許したけど、やっぱり俺としては嫌なわけよ。だって、実の弟が一緒に住んでるとか、普通に考えて無理でしょっ!?
「……一松くんは元に戻らないだすよ。」
「は?!」
「猫性転換手術をしただす。彼はもう立派な猫だす。」
「いやいや、なにいってんの!?あれだよ、イヤミとチビ太が女の子になった的なあれじゃないの?!一松も薬で猫になってんだろ?!」
「違うだす。」
おいおいおい、なにそれどゆこと。デカパン博士は「仮に戻れる薬があっても渡さないだすよ?それが一松くんの望みなんだす。デカパン博士は一松くんの味方だす。」と、このクソジジイは含みのある笑みを向けてきやがった。あれか、幼い頃イタズラしたことまだ根に持ってるわけ?やだやだ陰険。つーか、むかつくんですけどー!
もーさーどいつもこいつもなんなの!?
結局振り出しに戻ってしまった。むしゃくしゃして、そばにあった石を蹴っ飛ばしたら、白い猫の頭にぶつかった。痛かっただろう、ごめんなと思う反面、くそ猫ことを思い出して、苛立ちは募る。
あいつが現れなければ、俺の平穏なニート生活は守られていたはずなのに。
で、あいつは何のために俺となまえちゃんの家にやってきたわけ?実の弟なのに、四男のことだけは未だなにを考えてるのかわからない。
「……猫虐待するなんて、さすがはクズ松兄さん…」
「一松っ!」
白猫の頭をよしよしと前足で撫でている灰色のデブ猫。つーか、白猫の二倍の大きさあるけど、本当にデブ猫だなって口に出せば容赦なく猫パンチが飛んできた。
「いってぇな!……つーかお前、こんなとこでなにしてんの?」
「散歩だよ、見ればわかるでしょ。」
そんなのもわかんないのって目をしてやがって、猫に馬鹿にされるって心のとてもとても広い俺だって苛立つに決まってる。つーか、こいついつの間に首輪付けてもらったんだよ。なにそれ、なまえちゃんが買ってきたの?紫の首輪。一松のトレード色であることの偶然に、また、俺は余裕がなくなる。そもそも、なまえちゃんと2人きりの時からそんなもんない。
「それじゃ、僕、友達と遊んでくるから。」
友達って単語を一松から聞く日がくるなんて、そうだ、こいつもともと猫の友達しかいない寂しいやつだった。その白猫お前の親友?いつも煮干しあげてた猫なの?
白猫と一緒にどこかにいったくそ猫は、もう帰ってこなきゃいいのに。あ、でも、いなくなったらなったで、なまえちゃんが悲しむだろうからな、めちゃくちゃ複雑。
「あれーおそ松くん?」
「なまえちゃんっ!」
とぼとぼ歩いてたら、前から見覚えのある姿を見つけて、俺は彼女の手からスーパーの袋を奪う。そうだ、今日は半休だって言ってたっけなぁ。
ありがとうって、夜ご飯はおそ松くんの大好きな炒飯にするよって笑う彼女にたまらなくキスしたくなるけど、それは帰ってからにしようかな。
「…なんか、元気ないね、おそ松くん?」
「べつにーいつも通りだよっ!」
「…ほんとに?」
俺の横を歩いてたはずの彼女は、ぽふりって、俺の背中に抱きついてきた。不意打ちにもちろん胸はどきどきと高鳴る。なにそれなにそれなにそれ、普段人前じゃ嫌がるくせに。まあ、周りに誰もいないけど。
それなら、俺だって、我慢してやらないし。
とすんって手に持っていた荷物は地面に落ちる。
「なまえちゃん、目つぶって?」
彼女の方へと向き直して、彼女の肩を抱いて、なまえちゃんの柔らかい唇に自分のを押し当てた。
吸い付くみたいに重ねて、ねっとり舌を絡ませる。ちゅってリップ音が何度も鳴って、1度離れれば、なまえちゃんのうっとりとした瞳と目が合う。
「…は、おそ松、く、」
「まだ足んない。」
もー止まんないよ、しつこいくらいキスしてやるから。離れては重ねてを何度も何度も繰り返した。
求める度に息苦しそうする彼女に、興奮を覚える俺は、サディズムってやつ?やばい性癖?
ま、しょうがないよ、なまえちゃんがかわいいのがいけない。
あとさ、夜ご飯より先になまえちゃんのこと食いたいんですけどー。
だめ?
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