「なまえちゃーーーん!!!!おっかえりぃ!」
「ただいま、おそ松くん。」
20時前に鍵を開ける音が聞こえてくれば、すかさず玄関に向かうのが俺の日課。テレビ見てても、エロ本読んでても、ゲームやってても、全ての動作を中断する。ばたばたばたと短い廊下を駆ける。
そんで、巻きつくみたいになまえちゃんに抱きついた。
え、スーツが皺くちゃになっちゃうって?
そんなのしらなーい!それより、なまえちゃんにくっついてたーい!
あー会いたかった。だってさー俺、会えない間、辛くて死んじゃうかとおもったし。まじで、冗談じゃないから。なまえちゃんと離れてられんの半日が限界ですから。
「はーい!じゃあおかえりのキスね。」
すがりつくみたいに、舌を絡めあって、深い深いキスをする。触れるだけじゃ足りねえし!どうせするなら、ディープっしょ!!その柔らかさを堪能してたら、勝手に下半身はうずうずしてきた。でも、しょうがないじゃん、だって好きな女の子とキスしてるんだよ!?俺の息子は素直だからさー反応しないわけないよね。あーこれは今日も我慢は無理だわ。
彼女の腰に置いてた手を、身体のラインを撫でながら胸元へともってくる。そして、その膨らみをシャツの上からやんわり揉んでやった。
「……しよっか?」
「う、うん…」
蕩けた顔するなまえちゃんに欲情してしまって、その流れでセックスするのは、もはやお決まり行事。仕事でくたくただろうに、俺のわがままをいつもいつも彼女は受け入れてくれる。真っ赤な顔してね。
俺に押し倒されて、めちゃくちゃ恥ずかしがってるけど、ほんとはさーなまえちゃんも俺とセックスしたかったんだよねー?
あーもう超好き。好きすきすき。だーいすき!これでもかってくらい、気持ちよくさせてやるし、がんがんに攻めてあげるし。ニートですからね、体力有り余ってんのよ。
さーて、今日はどうやって愛してあげよーかなー!
ぺろりと舌舐めずった。
一通り行為をしたら一緒に風呂入って、ご飯食べて、ダブルベットで眠って、
そんで、朝はなまえちゃんと一緒に起きて、なまえちゃんが仕事にいったらベットにもどってぐーたらして、なまえちゃんが帰ってきたら、また彼女といちゃいちゃする。
俺の世界はなまえちゃんを中心に回ってるといっても過言ではないっ!
そう、それがくそニートの俺の日常だった。
………今日、この日までは。
いつものように彼女に抱きつこうとしたのだけど俺は躊躇ってしまう。
それは彼女が両腕で抱えてる、そいつのせいだ。
「え、なにその猫…」
「デカパン博士にね、飼わないか?って言われたんだぁ。名前はいっち君って言うんだって!」
にへらとなまえちゃんは笑ってる。あ、そういえば彼女は猫が好きだったっけなぁ。俺の周りは割と猫好きが多い。
「かわいいなぁもう!」
なでなでとそのまるっこいものをなまえちゃんは優しく優しく撫でてる。
なにそれーーなでなでなんて、俺されたことないんですけどー!
猫より俺のが100倍かわいいと思うけど!?ねえ、なまえちゃん!!!ちょっとねえ!
眠そーな顔した、ふくよかな灰色の猫は誰かに似ている気がした。なんか、すげー身近にこんなやついた気がするけど、人違いかな。いやでもこいつ猫だし、猫違いか。
「にゃー」
「もーーくすぐったいよ!」
おとなしくしていたデブ猫がなまえちゃんの口元を舐め始める。この俺を目の前にして、大胆なことするくそ猫はちらりとこちらを振り向き、まるで俺を挑発してるような目つきをしている。
は、猫の分際で俺とやり合おうってか?
俺が手を伸ばすと、こいつ猫パンチと引っ掻き攻撃て反撃してきやがった。なにこいつ、超むかつくんですけど!??
挙げ句の果てには、キスしやがって……ちょっとまって!俺、まだ、おかえりのちゅーしてないんですけど!??はぁーー!??なんなのこいつ!?
ぎりぎりと奥歯をすり合わせる。猫に嫉妬してる俺ってばカッコ悪い??そんなのしらねーし!!!猫だろうが犬だろうがハエだろうがなまえちゃんに触れるのは許さねーし!!!
結局、なまえちゃんはデブ猫に夢中で、そのまま俺のことは放置で風呂に入ってしまった。
だから、俺はさっきからぷんすか怒ってるわけよ。もーーエロ本でも読んでやる!!!なまえちゃんの目の前でな!!!実家から厳選してもってきた聖書とDVDたくさんあるし!俺、彼女いっぱいいるし!!!
「……嫉妬とか、くそださすぎでしょ。」
「あっ?!!」
がさがさとベットの下を物色してると、後ろから声が聞こえてきた。
すぐさま確認したけど、この部屋には今、俺以外だれもいないはずで、テレビも付いていない。風呂場からはシャワーの音がしてくる。1つ、動く生命体がいるとしたら、俺のこの嫉妬の元凶である、あいつだけだ。
「……おそ松兄さん、相変わらず、くずだね。」
「やっぱり、お前か、」
二度目の声が聞こえて、それがどこから放たれたものなのかすぐにわかった。しかも、その声はとてもよく知っているもの。
普通に考えたらありえない。けど、デカパン博士が絡んでる以上、ありえないこともありえることになってしまうのは、よく知ってる。
「一松……」
にやりと笑ってるようにみえるデブ猫は、俺の実の弟だ。
猫だろうがやっぱり俺たち6つ子だし、言葉じゃ言い表せないつながりってのがあるわけよ。
でも、なんで、こいつ猫になってんのかとか、なんで俺たちの愛の巣に乗り込んできたのかとか、わからないことばかり。もー考えるのもめんどくさいけど。
とにかく、本日、なぜか猫になった、俺の兄弟がこの家にやってきたわけよ。
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