「ん………うう……くしゅんっ」

「おはよ、なまえ。もしかして、風邪引いた?」

「…ううん、ちょっと寒かっただけだと思う…」


ぶるりと寒気を感じつつも目を覚ませば、私はおそ兄に腕枕とやらをされていた。いつからだろう…というか、いつ寝たのかさえ記憶がないのだ。まだ裸のままだし。それは、おそ兄もだけど。

少し寝ぼけてる私の唇に、おはようのチューしよっかと、彼は一度重ねてきた。もしも、おそ兄と一緒に暮らす日が来たら毎朝こんな感じになるのかなぁなんて想像してしまう。



「お前さぁ途中で気絶したからさすがに焦ったよ俺…そんなに激しかった?」


尋ねる前に、ぺらぺらと何があったのか話してくれたおそ兄に、私は顔が熱くなる。思い出してしまったのは昨晩のこと。

きっとすぐそこにあるゴミ箱にはどれだけ使用済み避妊具が入ってるのやら…恥ずかしくて確認なんかできるわけない。


「…俺はまだ足りないんだけどなぁ」

「え!?」

「今夜も覚悟しとけよ、」


意地悪そうに笑う彼は、さすがはエロ魔神。私の身体は果たして持つのだろうか。骨抜きにされすぎて明日の朝には立つことすらままならないってことになりそうで、とても心配だ。








「……じゃーん!おそ松特製ソース焼きそば完成っ!はい、召し上がれー!」


特製というのは名前だけで、正体はトド松くんが持ってきてくれたカップ焼きそば。お湯を入れてしばらくすれば出来上がりなのだけど、おそ兄の中ではその過程ですら料理に入るものだと笑ってる。
…ということで、初めてのおそ兄の手料理。割り箸を持ち、いただきますと手をあわせる。するすると麺を口に運べば、久しぶりのご飯のせいもあって、いつもより数倍美味しく感じた。

ふと彼の方へと目をやれば、頬杖をついて優しい笑顔をこちらへと向けてくれてる。私の好きな彼の表情に、どきどきする。


「どう?うまいっしょ?」

「うん!」

「そりゃ、俺の愛情たっぷり入ってるからね!」


本当にその通りなのだと思う。溢れるくらいの愛情を私は今この瞬間も与えられてる。

おそ兄は私にたくさんたくさん愛をくれているのに、私は同じだけ返せているのかな?できれば返せてるといいなぁ。
だって、おそ兄にも私と同じくらい幸せでいてほしいし、フェアでいたいもん。

いただきまーすとようやく食べ始めた彼の勢いはさすがは男の人というべきか。一瞬にしてカップの中身は空っぽになった。




食べ終わった後は、置いてあったテレビゲームをしたり、お昼の情報番組をみたりして、あっという間に半日が過ぎていった。

時間って早い。それは尊いほどそう思う気がする。

ソファーからほとんど動かず、おそ兄にぴったりとくっついていられるのは、他の兄弟の目があったあの家ではできなかったこと。二人きりだからできること。今がどれだけ貴重で、大切な時間かは計り知れない。


おそ兄と二人で暮らせたらって、朝起きたての頭でぼんやりと考えたことは、いつか本当に現実になることはあるのかな。

チョロ松お兄さんたちから逃げ続けるわけにも、トド松くんたちに甘えてるわけにもいかないって、この現状がいつまでも続くわけじゃないってわかってる。

わかってはいるのだけど、できればもう少し、もう少しだけこの刻が続きますようにと願っていた私はきっと二人がどうなるのか予感していた、のかもしれない。
もしも、もう一度あの家に帰るときがきたら、それは…。



「ほーら、そんな顔しないでよ。お兄ちゃんまで悲しくなっちゃうよー?…笑って?」


困ったような顔をした後に、薄く微笑んで、私の頭をぽふぽふと撫でる。

その優しさに、笑顔に、私は何度救われたのでしょうか。だるい身体を預けるように、おそ兄に抱きついた。タバコの匂いの中に、なんでかほんのり甘い匂いがする。香水とはまた違って、安心できる匂いだ。離れたくない。ずっとこうしてたい。



「…なあ、なまえ、やっぱり少し熱ある?身体熱くない?」



ぴたり、額に当てられた彼の手が冷たくて気持ちいい。普段のおそ兄は体温高くてあったかいのに、どうしてかなぁ。
そんなことないよと、私は彼の腕の中で眠りについた。

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