「おそ松兄さん、なまえは一緒じゃないの?!」

「ん、そんなに慌てて、どーしたの一松?」


なまえと解散した俺が、パチンコ屋で暇つぶしでもしようかと思ってた矢先のこと。一松は珍しくも血相を変えて、息切れを整えながらゆっくりと何が起こってるのか話してくれた。

ふつふつと湧き上がる怒りとともに冷静な俺自身もいて、
三男がなまえのことを俺と同じように好きなことも、
あいつが時折、人道から外れることも知っていたし、心のどこかでこうなることをわかっていたんだと思う。

それでも俺は6つ子というものを守りたかった。なまえと同じくらいに。たとえ、騙す形になったとしても、だって、生まれる前から一緒の弟のこと、そう簡単に切り離せるわけないじゃん。




「お前ふざけてんじゃねぇよ!」

「…いや、ふざけないで欲しいのはおそ松兄さんの方だから…!
約束しただろうっ!もうお前とは絶縁だっ!!」


チョロ松の胸ぐらを掴んで、言い返す言葉が見つからない俺は暴力に頼ってしまうどうしようもない大人だ。
もう一度拳に力を込めて、殴りかかろうとした俺を止めたのは、後ろから抱きついてきたなまえの存在。

「おそ兄、もう、やめて!」


腰に巻きつかれたその手は震えていた。
泣きじゃくる彼女に、いつしかの思いが過る。俺といることが、なまえにとっての不幸にならないかって。後悔させないかって、本当はずっと怖かったんだ。

涙を流させたいわけじゃない。俺はいつだって、なまえに笑っていてほしいだけだから。


「…僕は絶対に認めない!このことは、母さんに報告するからっ!覚悟しておきなよ、」

「勝手にしろっ」


なまえの手首を掴んで、ずかずかと大股で玄関へと進んでいく。心配そうな一松には「大丈夫だから」と一言かけて、俺はびしゃんと音を立てて、思いっきり扉を閉めた。
楽園だったこの家は、今この瞬間、敵の陣地となってしまったわけで、はじき出された俺らはさてどうしよっか。生憎、自由に使える金もないし、先のことなんてなんにも考えてない。

いつものように手を繋いでこの町を歩く。一つよかったことは、これからは堂々となまえと一緒にいられる。人目を気にすることも、兄弟たちの前で普通を装うことも必要なくなった。

ここにいる近隣住民全員に、なまえは俺の女だって、言いふらすこともできるってわけよ。


「あの、おそ兄、その、やっぱり戻った方が…」


俯くなまえの顎を持ち上げて、信号待ちの交差点だろうとも俺は気にせず彼女にキスをした。なまえの顔は予想通り真っ赤に染まって、大勢の視線が一気に俺たちに注がれるのも、今は気にしない。


「こ、こんな人前で、は、恥ずかしいよっ!」

「たまにはいーじゃん!」

意地悪く笑って、ランプが青色に変わった瞬間、俺たちは行く宛もわからずに、再び真っ直ぐに歩き始めた。絶対離さないように、きつくきつく彼女の小さい手を握りしめる。


「なあ、なまえ、」

「なーに?」


このままさー駆け落ちしよっか?


亡き父、松造ができなかったことだけど、俺なら出来るかもしれないじゃん。

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