「最近やけにご機嫌だね。気色悪いよなまえ。」

「えへへ、だって、勝手に口がゆるじゃって!」

土曜日の朝。家に残っているのはなまえと僕だけで、他のやつらはそれぞれ予定があるようだった。彼女の大好きなクズ長男も馬に会いに行ったらしい。それなのに、彼女は笑顔を絶やさない。普通だったら恋人を置いてけぼりして競馬行くとか怒るとこじゃないの?
にやにやへらへら、なにがそんなに楽しいのか、僕にはさっぱりわからない。


「仲直りしたの?」

「うん!」

「まあ、よかったね。」


この前ね、彼がね!ってべらべらとしゃべり出すのはなまえだけ。
ただ黙って猫を撫でながら、彼女のノロケ話を聞くのは別に嫌じゃないけど、やっぱり長男がなぜそんなに男前に美化されているのか理解できなかった。

お見送りとお出迎えしてくれる。って、それただ単に暇人ニートだからできることだし。
バイト先まで迎えにきてくれる。ってそれカレシなら普通じゃないの?だってカノジョのこと心配になるでしょ。物騒なご時世ですからね。

極め付けには、この前、僕らの眠ってる間に隣の部屋で恋人同士ですることをしたらしい。

たぶんあの日だ、夜中にキッチンでなまえに会ったあの日。元気はないと思ってたが、今にも泣きそうな顔をしていたなまえ。
なのに、あの後セックスしてたのかよこいつら。なにがどうしてそうなったんだよ。いやいや、自重しろよ。

でも、想像すると、ちょっと興奮する。長男となまえが、この家で…。
もしかしたらAVを見る度に二人のこと思い出しそうで怖いかもしれない。

いや、さすがに身内をおかずにはしないけど。

…チョロ松兄さんに知られたら、あの人確実に発狂するだろうなぁ。なんて、幸せそうな彼女を横にし、ぼんやり思っていた。




「やっふぅ!!圧勝だったぜ!」

がらがらと玄関の扉を乱暴に開けて、ばたばたと階段を子供みたいに駆け上がるのは十四松か、それか、もう一人の馬鹿しかいない。

バタンッと僕らの目の前の襖が勢いよく開いた。


「たっだいまー!なまえ!それから、一松も。」

「おかえりおそ兄!」


あ、噂をしてればクズが帰還したようです。やつがやってきた瞬間のなまえの目の色の変わり具合半端じゃないから。なにあの、恋してますオーラ。なにあのキラキラしてるの。
リア充の姿は僕にはあまりにも眩しすぎて、このまま殺されかねない。ゴミですけど、こんなやつらに殺されるのは真っ平御免だし。

「ねえーなまえ!おにいちゃん、儲かったからさぁ〜これさらデートしにいこっか!」

「行くっ!」


隠してるという割には堂々と外をほっつき歩いてる気がするから、こっちとしては少しヒヤヒヤするんだけど。まあ、おそ松兄さんはなんだかんだその辺器用だから大丈夫だと思うけど。


「あ、一松!松代たち帰ってきたら適当に誤魔化しといてな!」

「へーい、煮干二袋ね。」


3回に1回はちゃんと煮干買ってくるから、クズ長男にしてはわりかし約束守ってる方だ。いや、毎回買ってこいって話なんだけどさ。だって、僕の役割なかなか重役だと思うんですよ。


…なまえは知らない秘密が僕らにはある。だから、二人のことはもう少し大人になるまで隠し通さなきゃいけない。

だって、それは、ひどく彼女を傷つけるかもしれないから。

別に応援してるとかそんな感情ないけど、まあ二人ともなんだかんだ大事な家族だから幸せならそれでいいんじゃないかなと僕は思う。









だけど、残念ながら、僕と同じ考えの人間はこの家に他には居ないんだよね。





「ねえ、一松?お前の知ってること今すぐ全部吐け。」

「は、なに急にチョロ松兄さんいきなり。」

「いいから、昼間なまえと話していたことの詳細、すべて吐け。」

「は、なんで、知ってる…。」


彼の指差す先には、コンセント。
チョロ松兄さんの持つリモコンの様なものから漏れるのはなまえの声。それは、ひたすらに僕に向かって喋ってたクズ長男の惚気話。

は、盗聴器?なにそれ、まじかよ、面倒ごとには巻き込まれたくなかったのに。

しかも、選りに選って、一番厄介な三男に捕まってしまったわけで。

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