おそ兄と、キスしたり、だきしめあったり、戯れ合うというかいちゃいちゃするのは家族がいなければよくあること。 だって、できればずっとくっついてたい。すきな人とそうありたいと思うのは、ごく普通の感情だ。 それに、6人もお兄ちゃんがいれば、誰かしら家にいるし、二人きりは私たちにとって貴重なものなの。 「ね、ねえ、なんで隠れたの!?」 「しっー!静かにして。」 玄関から物音が聞こえてきたから、私は慌てておそ兄から離れようとした。なのに、今、私たちは押入れの中にいる。荷物を寄せてみせても、この空間は二人には少し狭い。 おそ兄に後ろから抱きしめられる形だから、さっきから心臓がうるさいし。 「…たまにはさ、こうスリリングな感じもよくない?」 耳元で囁かれた言葉に、ぴくりと体が震えた。気を抜けば溶け出すのではと思うくらい、耳が熱い。 ばれちゃうかもしれないと心配そうに呟く私に、「大丈夫だって」とおそ兄は自信ありげに言い切る。ただ、好奇心に動かされただけで、なーんにも考えてないのだと思う。 小声で話しかけてくるおそ兄の表情はなんとなく予想はついて、きっといつものように笑ってるんだろうなぁ。それは私が好きで好きでしょうがない笑顔なのだけども。 ばんっと襖を勢いよく開けた誰かは、「なんだ、誰もいないの?」と一言呟いて、それからこの部屋でなにやらごそごそと物音を立てて何かをしている。たぶん、声からして、そこにいるのは一松くんだ。 ばれちゃだめ。それがおそ兄との約束だから、きゅっと唇を噛み締めて、絶対に喋らないように慎重にならなければいけない。 「ひゃっ!?」 ぱくりと耳たぶを噛まれて、さらにはぺろりと舐められたために、奇声が漏れてしまった。 一松くんの「やっぱり、誰かいるの?」の問いかけに、私は無言を貫く。返答がないことから一松くんからは再びがさごそとなにやら荒らし始めて、これは、セーフなのだろうか? 「……もーなまえったら、そんな大きな声出したらマズイよ?」 誰のせいだと思ってるんだ。言い返すこともできずに、私は自分の口を塞ぐ。相変わらず、心臓はばくばくいってるし。おさまれおさまれと念じてたところで落ち着けないし、おそ兄の余裕を是非とも少し分けて頂きたい。 味をしめたのか、今度は首裏に吸い付いてきた。その手は私の胸元まで上がってきて、やめてと懇願したところで、きっと彼のスイッチを入れてしまうだけなのはよくわかってる。だって、にやりと悪戯に笑ってるおそ兄はエロ魔神だもん。 「なまえ、こっち向いて、」 「ん、」 顎を持ち上げられて、キスしたいとせがんでくるお兄ちゃんに私は素直に応えるだけ。 にゅるりと入ってきた舌の動きに合わせて、私も動かしてみたけど、酸素の薄いこの場所では、いつもより息がしづらい気がした。 近い。暗くてよくみえないのに、おそ兄の体温だけはいつものように感じられる。どきどきするのに、落ち着ける温度。 はぁと私の口から漏れた吐息が行為中を連想させて、そう思ってしまったのはきっと彼も同じ。 「あの、その、おそ兄…」 「あーごめんってば。でも、勃っちゃったのお前のせいだし。……なーに、触ってくれんの?」 「さ、触らないよ!!」 ぶわっと溢れる熱の反動で、思わず上げた声は割と大きいもので、すぐ自分の置かれている状況を思い出して、後悔した。 薄い壁の向こうにいる一松くんは「そこにいるのなまえ?つーか、なんでそんなところ入ってんの?」って今度は名指しで呟いて、私は冷や汗がたらたら流れ始める。 ばれてしまった。何て弁解すればいいのだろうか。 かくれんぼしてた?いやいや、おそ兄と密着して、押入れにいるなんてどう考えても誤魔化しは聞かない。「開けるよ?」と近寄ってくる足音に、緊迫し心拍数は上がる。 どうしよう、どうしよう。 「あのさぁ一松、 今、取り込み中なんだよね〜見張りよろしくな!」 「チッ、10分だけだから。それと、煮干。」 「わかったわかった!んじゃ、よろしく!」 二人の会話に、耳を疑った。それは、まるで一松くんが私たちの関係を知ってるような口振りだったから。私たちのことは誰も知らないはず。それは、おそ兄が言ってたこと。 混沌してる私に構わず、おそ兄は再び唇を重ねてきた。これでゆっくりイチャイチャできるねーと、にこにこしてるおそ兄と、置いてけぼりの私。 二人っきりになれるのはとても喜ばしいのだけど、でも、これは、どういうことなのでしょうか? 「あれ、一松にバレれてるって知らなかった?つーか、俺がバラしたんだけどな、」 「は、初めて聞いたよっ!」 そんな大事なこと今まで黙っていたの?! おそ兄が時たま適当すぎることも知ってはいたけども、あっさりしてる彼に、わざと機嫌悪そうにしてみれば、ごめんごめんっておそ兄は私の頭を撫でながら謝ってきた。 それで簡単に許してしまう私は、なんて扱いやすいことでしょうか。 でも、いいの。おそ兄の首に腕を巻きつけて、これでもかってくらいに密着すれば、おでこに一つキスが落とされる。 「……それよりさ、そーゆーことだから、少しだけエロいことしよっか?」 私の返事は、もちろん「いいよ。」の一択のみ。 今日はやたら積極的で、子供っぽいおそ兄だけど、結局私は彼と一緒にいられるだけで、それだけで幸せなのだ。 「ねえ、聞いてよ、一松。俺さ、今日、初めてなまえとセックスしちゃったんだよねー」 「あ?なに、あんたらそういう関係なの?」 すっげー気持ちよかったって俺の感想に興味なさそうに、弟は聞いている。ちゃんと聞いてるのかもよくわかんないけど。 「まあ、どうでもいいけどさ、母さんと他の兄弟には悟られるなよ。めんどうに巻き込まれるの御免だし。」 そう言って四男は煙草に火をつけた。 前に言われた一松の忠告さ、俺、すっげー律儀に守ってるよ。 back |