「おそ松兄さん、このAVなかなかイケるよ。」

「一松兄さんがAV勧めてくるって珍しいね!!!!僕も見たい!!」



今はテスト期間中。だから、午前中で学校が終わる。お昼すぎに自宅へと戻れば、なにやら襖の向こう側でいかがわしいことが行われそうであった。四男と五男のお兄ちゃん。それから、大好きな彼がすぐそこにいるであろうけど、今更、ただいまとも言えないし、私は襖に耳をぴたりとつけて、盗み聞きしようと必死である。

えっと、その、ニートの日常とは、アダルトなDVD観ることなのでしょうか?
真昼だろうと関係ないのでしょうか。男の人ってよくわからない。


「あー俺、今日はパスしとくわ。」


耳を潜めていれば、一番聞きたかった声が聞こえてきた。彼のその言葉にほっと胸をなでおろすのは、きっと世の女の子ならみんな同じだと思う。AVの鑑賞くらい許してあげるのが、寛容で出来る女性なのかもしれないけど、生憎私はまだまだ子供なので、好きな人が他の子に目移りしてしまうのは複雑でしかないのだ。しかも裸の女の子でしょ、私よりも細くて胸が大きい…私に勝ち目なんてないもん。悔しいもん。



「珍しいね、おそ松兄さんが乗り気じゃないなんて、」

「制服ものだよ!??おそ松兄さんこういうのも好きだよね!?」

「んーでも、カノジョが嫌がるからさぁ〜」


カノジョ。それが私のことだって思うと同時にぶわって全身が熱くなるのを感じた。初めて言われた、他のお兄ちゃんに対して、カノジョがいると初めて言ってくれた。
隠している方が都合がいいからと、家族の間では私もおそ兄も恋人はいないことになっている。なのに、なにそれ、嬉しい。本当はずっと、私が彼のカノジョであると誰かに認識して欲しくて仕方ないの。

思わず口元を抑える。だって、にやけが止まらないし、なんか、嬉しくて声もれちゃいそうなんだもん。




「だってさ〜AVなんかより本物鳴かせる方がたのしいし?大事だからあまり無理はさせられないけどさ、俺のことしか考えられなくなっちゃうくらいセックス叩き込んでやりたいし、できれば、毎日抱いてやりたいくらいだし。俺の突っ込んでもっとぉ欲しい〜とか言わせたいし、口に突っ込んでもやりたいし!バックで攻めるのもいいし、あ、でも騎乗位も捨てがたい。あれもこれもヤリたい、あーやばい、セックスしたくなってきた。」

「あーハイハイ。惚気ですか?リア充死ね!」

「痛っ!暴力反対!!!やめろよ一松っ!!」

「おそ松兄さん、ヤバイッスね…。」



浮かれていたのも束の間。どうしよう、私、とんでもないこと聞いてしまったかもしれない。毎日!?毎日あんなに恥ずかしいことしたら、私、絶対死んじゃう!別にエッチするのが嫌いなわけじゃなくて、好きだけど、でも、限度ってものがあるの!と一人、心の中で訴えた声はおそ兄に届くはずもない。

おそ兄は自分で強い方だと豪語してたけども、男の人の性欲とやらは未知数だ。

これ以上ここに留まるのは危険な気がして、そろりと忍び足で自室へと向かおうとしたその時、真後ろにある襖ががらりと空いた。


「あっれ〜なまえ、帰ってきてたんだあ〜?どうしたの、顔真っ赤だけど?」

「おそ兄、へ、いや、えっ、」


にやりと笑ってる余裕なおそ兄に対して、沸騰しそうなほど赤面する私。変な汗出てきたし。
「あ、もしかして、今の話聞こえてた?」と呟く彼はどこかワザとらしい。これは、もしかすると確信犯かもしれない。そんな気がする。


「ぜ、全然っ!な、なにも聞いてないよ!!!別におそ兄がAV鑑賞しない理由なんて、私知らないよ!?私、テスト勉強あるから2階行ってるね!!!!」

「待てよなまえ、」


だんだんと音を立てて、慌てて階段を駆け上がる。割と響くものだから、きっと松代さんがいたらうるさいって怒られちゃうなぁ。

こういうときは逃げるが勝ち!逃げるしかない!

でも、この狭い空間で、私が逃げ切れるはずもなく、追いかけてきた赤いパーカーにあっさりと捕まった。

「お前さぁ、お兄ちゃんから逃げようだなんて100万年早いから。」

掴まれてる手首が、じりじりと熱い。ついでに顔も変わらず熱い。いつもいつも、おそ兄に攻められてばかりの私もたまにはやり返してあげたいのに、やっぱり今日も叶いそうにありません。

しんと静まりかえる、一番奥の部屋に二人きり。近づいてくる彼の口元を思わず片方の手で押さえた。



「ま、待って、待って待って!!一松くんと十四松くん、下にいるよ!?」

「んー、一松いるから平気だし。」


なにが平気なのかよくわからないけども、私の抵抗は虚しくも、彼によって優しく振りほどかれる。ゆっくりと畳の上に押し倒されて、そのままキスをされた。

「ふぅん、はぁ、」

それも触れるだけじゃなくて、おそ兄の舌が入ってきて、侵されるみたいな慣れない長い長いキス。いつまで経っても、息の仕方がわからないの。
離れたと思ったら今度は首を吸い付かれて、きっとキスマークとやらを付けて、おそ兄は満足そうに笑ってる。

初めてじゃないし、なにをそんなに焦ってるのか自分でもよくわからないけども、お家でそういうことしたことないし、誰かに見られたらどうしようとか、万が一バレてしまっておそ兄と一緒にいれなくなったらやだなとかいろんな考えが入り混じってパンクしそう。

私の胸に手をかけようとした、その手はぴたりと動きを止めて、静かに離れていった。


「…やーめた!だから、そんな怯えないでよ。」


彼の様子を伺えば、腕を引っ張られて、そのまま、ぽふりと抱きしめられる。「ごめんな」って、宝物に触れるみたいに、優しく頭を撫でてくれるおそ兄に、応えてあげなきゃなって素直に思っちゃったの。


「おそ兄、」

「ん?」

「大好き。」


ふにっと、私の唇は彼の柔らかいそこと重なる。もしかすると私からキスするのって、これが初めてかもしれません。

不意をつかれたおそ兄は驚いた表情した後に、愛おしそうに私を見つめた。


「あーもうさー可愛すぎ。俺のカノジョ、世界一可愛いわ。だから、やっぱりセックスしよ?」


おそ兄だって、誰にも負けないくらい世界一かっこいい彼氏だよ!でもでも、今日はお預けです!





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