週に3回。平日は火曜と木曜。それから日曜日。たまに学校行事やその他の予定で変動するときもあるけど、私は駅前のファミレスでアルバイトをしている。ここを選んだ理由は制服がかわいいから。あとは接客に興味があったから。 「おつかれさまです!お先に失礼しますっ!」 時間は17時から21時まで。タイムカードを切って、急いで着替えを済ませる。早く早く、帰りたい。従業員入り口を抜けて、自然と駆け足になる私の目的地もちろんひとつだけだ。 「……そんなに急いでどこいくの、お姉さーん?」 「お、おそ兄!?」 聞き覚えのある声に、私はぴたりと足を止めた。壁に寄りかかってこちらに手を振ってるのは愛しい人。煙草買いに来たついでに寄ってみたって彼は笑ってる。 今日は割引デーの日。だから、散々お客さんに呼ばれて動き回って、相当疲れたはずなのに、おそ兄の顔を見た瞬間に、そんなのどっかにいってしまった。朝ぶりのおそ兄の姿がきらきら輝いて見える。 「一緒に帰ろっか。」 「うん!」 もうやばいよ、にやにやしちゃうよ。ドーパミン放出されまくりだよ。 いつものように手を繋ごうとしたけど、なぜかおそ兄に振り解かれてしまい…そっけない彼の態度にずきりと胸が痛む。 え、なんで、おそ兄怒ってる!?私、なにかした!? 「…あとでな。」 でも、その言葉の意味をすぐに理解する。 「なになに、なまえちゃんって彼氏いるの?!」 「まじかよー!!俺狙ってたのに!」 真後ろにはいつの間にか他のアルバイトの子たちがいて、ぱたぱたと足音を立てて、こちらに向かってきてた。 一個上の女の先輩に、同い年の男の子。人の恋路には首を突っ込みたくなるのが人の性ですから。私だって、ころころ変わる友達の彼氏事情には興味津々だし。 「俺はなまえの兄のおそ松です。いつも妹がお世話になってます。」 「なんだ〜お兄さんでしたか!」 これは年上の貫禄というやつなのか。いつもより落ち着いてみえるおそ兄に、勝手にときめいてしまった。 おそ兄は確かに私のお兄ちゃんだ。6つ子の長男だ。煮え切らない気持ちに、思わず彼の赤いパーカーを掴んだ。 本当の本当は彼氏だって言ってしまいたい。 確かにお金使い荒いところもあるけど、世界一カッコよくて優しい彼氏だって、この人たちにも、友達にも、他のお兄ちゃんにも、松代さんにも、天国のお父さんお母さんにも、松造さんにも、みんなに言いふらしてやりたいのに。 いつまで秘密にしてればいいのかなぁ。 しばらく歩いて、人気がなくなった瞬間にようやく、おそ兄から手を繋いでくれた。彼の温度を感じると落ち着く。ずっと繋いでたいって毎回思っちゃうもん。二人きりのこの瞬間は、なににも代えがたい大切な時間。 「…ねーなまえ、」 「なーに?」 「俺、これから毎回迎えに行くから。」 暗くてよくは見えないけど、どうやら彼はふくれっ面をしてるように見えた。やっぱり、怒ってる…? 今朝の朝ごはんで、最後の一個を食べちゃったことかなぁ。それなら、謝りたい。だって、おそ兄に嫌われたくないもん。なんて思ってたけど、どうやら見当違いのようでして。 「だってさーお前のこと好きな男がそばにいるとか、めちゃくちゃむかつくんだけど。」 「え、」 これはもしかして、もしかしなくても、ヤキモチというやつだろうか?おそ兄が、私に? 私がおそ兄にヤキモチやくことはわりとしょっちゅうあること。だって、エロ本とかAVとかさ、男の人だからしょうがないってわかってても、妬けちゃうのだ。 「…なーに笑ってんのお前、」 「だって、」 だから、素直に嬉しいと感じてしまうよ。 こっち向いてって顎を持ち上げられて、そのままキスをされた。 「…なまえのこと、誰にも渡したくないのー。」 心配しなくたって、私の全部はおそ兄のものだよ? back |