私には2個上のお兄ちゃんがいる。1人じゃないよ、それも6人も!それからそれから、お兄ちゃんは世にも珍しい6つ子だから、みんな同じ顔してるの。

なのに、なんで、たった1人だけがかっこよくみえちゃうんだろうなぁ。

がらがらと玄関の引き戸を開ければ、自宅警備員をしてる彼が私を待ち構えていた。赤いパーカーは長男の印。


「おーかーえーり、なまえ!」

「ただいま、おそ兄!」

靴を脱ごうとしたのに、彼に腕を引っ張られて、そのまま、軽いキスをされた。ぼんって頭頂から噴火が起きそうなほど顔を真っ赤にした私に、お兄ちゃんは大層満足げに笑ってるし。少し意地悪なその笑顔に、この心臓はまた早くなる。


「……ま、松代さんに見られたらどうするのっ?!」

「安心しろって、今、だーれもいないからっ!」


だから、特別サービスしてよって思いっきり抱きしめられて、タバコの匂いとか、お酒の匂いとか、苦手だったはずなのに、おそ兄のそれは安心してしまう。変なの。頭を撫でられるたびに、離したくなくなっちゃう。このままずっとくっ付いていたくて、私も彼の背中に腕を回した。




………両親を亡くし、私が松野家に引き取られて早5年。病気で松造さんが亡くなって、もう2年。おそ兄と恋仲になって、1年が経つ。

この数年でいろんなことがあった。でも、私は幸せに過ごせている。それは、おそ兄のおかげと言っても過言ではない。だって、おそ兄がいなかったら、私は道を踏み外していた…かもしれないし。


「…まーた、スカート短くした?」

「ちょっとね!」

「パンツ見えちゃうよー?」


紺色のプリーツスカートを捲る手を引っ叩く。下にちゃーんと黒のインナーパンツ履いてますから!安心してください!今時の高校生はこれくらいが普通なんです!


行き場の失くした手は今度は私の太腿を撫で始めて、このエロ魔神はスイッチが入ったら止まらないこともよく知ってる。
でも、耳たぶに息を吹きかけられ、発された囁きに身体がうずうずしちゃってるし。


「…ねーなまえ、」

「なーに?」

「俺っさ〜臨時収入入ったし、これから休憩しに行かない?」


どうせ、パチンコか競馬で買ったお金なのだろうなぁ。こういう人を人間のクズっていうのだろうけど、私は彼が好きで好きでしょうがないのは、なんでなのかなぁ。

休憩にいくとは、そういうことしにいこうってこと。頬を赤らめて「……いいよ。」と小声で呟けば、おそ兄は万歳して喜んでくれた。

「よっしゃー!んじゃ、早く着替えてこいよっ!」


こないだバイト代で買った、赤いワンピース着よう。似合ってるって言ってくれるかな?
お揃いの赤色を身に纏うだけで、私の口元は勝手に緩んでしまう。あーもう重症だって、わかってるもん。だって、おそ兄のこと大好きだもん。



「…超かわいい、なまえ。」


自然と繋がれた手。家を飛び出せば私たちは兄妹じゃなくて、恋人同士になれるの。松代さんにも、他のお兄ちゃんにも見られちゃだめなのになぁ。でも、離れたくないから、ぎゅって強く握りかえす。


もちろん私たちに血の繋がりはない。
だから、いつか家族のみんなに、私はおそ兄のことが好きですって包み隠さずに言いたいな。


それまで、この恋は秘密。


私の初恋は、きっと祝福されるものだって、本気で信じていました。




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