記憶だけじゃなくて、彼と共有した「物」も、たくさん残ってる。


「ねえ、これとかどうかな?」

新しいスカートを買おうと訪れた大型ショッピングモール。男の人って、長時間の買い物を好まない人が大半だと思う。けれども、あの日の彼は嫌な顔せずに、一緒になって買い物を楽しんでいた。彼はいつでも一直線な人で、私よりも真剣に選んでいる彼の顔を眺めて、口元が緩む。


「うーん、俺はどっちかというとこっちの方が好きかな!」

「それじゃ、これにする!」

小ぶりの花柄のスカートはかわいさのなかに上品さもあって、彼の好きな系統はこんな感じなのかな。クロゼットの中身を思い出して、そういうのあまり持っていないかもと、今後の買い物に影響がでそうだなーなんて考えてたけども、自然と繋がれた手に意識は奪われた。持っていたはずの紙袋は彼がいつの間にか肩から下げている。

「次のデートで着てきてね!はい、約束!」

「うん!」

もう片方の手で、指切りげんまんをする。ほっぺにキスされて、私も仕返してあげたの。私たちってはたから見たら、とんでもないバカップルだったのだろうなー。でも幸せだからそれでよかったの。











「なんかよくわからないけど、せっかくのデートだから楽しまないとね。」

一昨日、初めて対面した末っ子のトド松くん。これで4人目で、彼はなんとなく他の兄弟よりも顔立ちが幼い印象を受けた。末っ子ゆえなのか、甘えたな雰囲気を感じる。私にも兄がいるから、なんとなく同じ様な気がしたの。

ちなみに五男の十四松くんは訪れるたびに家にはいなくて、まだ会えていない。噂だと6つ子いちのハイテンションらしい。

早く会ってみたいなと、目の前に出されたカフェオレをひとくち含む。

私たちはショッピングで歩き疲れたために、珈琲店で休憩をすることにした。スタバァはトド松くんの庭といっても過言じゃないそうだ。

「だいたいさー成りすましとか意味わかんないよね。しかも、よりによっておそ松兄さんかよ。」

「そうだよね、」

きっと思ってることはみんな一緒だろう。その行動の意味がわからないって、言葉にされるたびに、私だけは彼を信じなきゃと、自分で自分を苦しめるような気分になる。本当は今にも不安に押しつぶされそうで、怖かったんだ。

「なまえちゃんはさーその彼氏のどこが好きなの?」

「うーん、強いて言うなら能天気なところかな。」

「なにそれ、ただのクズじゃん!」

「もーそんなこと言わないでよ!」


短い間だけども、一緒に時間を共有して変わったトド松くんのイメージは、割とさばさばしているってこと。はっきりと物言いするところは、どこか彼に似ているかもしれない。
まだ出会って1日足らずなのに、トド松くんは誰よりも話しやすい。気を使わなくて済むし、もしも、男友達にいたらすごく心強いのだろうと、そう思う。
さっきまでの買い物も、似合わないものは似合わないってはっきり言ってくれるし、的確にアドバイスをくれた。


「でもさ、話聞いてる限りじゃ、本当におそ松兄さんそのものだよ。」

「そうなんだ…」


少し頑固で子供っぽい、マイペース、遅刻魔、いつも笑顔、並べるとあまりよく思えないワードもあるけど、彼の話を先ほどトド松くんにしたら、それはおそ松くんをそのまま生写ししたみたいとそう返ってきた。その言葉にまたもやもやと心がぼやける。
誰がそこまで完璧に演じられるか?と考えて、演劇部だったカラ松兄さんかな〜と呟いてた。でも、トド松くん曰くカラ松くんは大根役者だったそうだけど。


「まーもし、彼氏見つからなかったら、僕のとこ来てもいいからねー!」

「トド松くんは彼氏って感じじゃないんだよなー」

「なにそれ、ひどい!」

気軽に冗談がいい合えて、味方が出来たような気がした。トド松くんの存在が、私の不安に押しつぶされそうなこの気持ちを少しかき消してくれたの。