本日、大学の卒業式を迎えた私は、待ち合わせのために駅へと向かう。
おそ松くんの大怪我も、時間が過ぎるにつれてよくなっていき、特に後遺症が残ることもなく、今では、今まで通り日常生活を送ることができるようになった。
あれから、もう一年と半年が経ってしまったの。時間って、早い。それはきっと、あの日から変わらずに隣に大切な彼がいてくれるからなのかな?
「…卒業おめでとう、なまえちゃん。」
改札を出ると、赤色のパーカーの彼がすぐに私に声をかけてくれて、おそ松くんとその兄弟はすでにそこにいた。残念ながら、紫色だけは見つけられなかったけども。
青いパーカーの彼が私の前で跪き、大きな花束を向けてきて、私はそれを受け取る。6色の花が詰まった虹色の花束からは甘い匂いがした。
その中で際立つ赤いバラは、私の大好きな色。もうずっと赤色が愛おしくて仕方ないのも、彼のせいだよ。
「ふ、今日は祝福日和だな、なまえちゃん。」
「なにしてるの、おそ松くん。」
「あ、ばれちゃった!?」
けらけらと笑う青いパーカーはカラ松くんじゃない、おそ松くんだ。
「僕は止めたんだけどねー」ってトド松くんは苦笑いしていたけども、もう大丈夫。もう、私は騙されないの。
時たまこの人は、子供みたいに人に嘘をつく。でも、そこも含めて、私の大好きなおそ松くんだから。
「…なまえちゃん、これ、受け取ってやってくれないか?」
「猫のキーホルダー?」
赤いパーカーのカラ松くんから受け取ったそれは、猫の木彫りのキーホルダーで、後ろ側をみると、おめでとうと一言、掘ってあった。
誰からの贈り物かは言われなくてもわかる。
今度、「ありがとう。」って直接、伝えに行こう。あの頃から私たちは少し大人になって、一松くんとも今では自然に会話できるようになったと私は思ってる。
おそ松くんにとって、大切な兄弟は、私にとっても、もちろん大切な存在だもん。
「それじゃ、とりあえず、飲みに行こうか!カラ松の奢りでっ!」
「なんで俺なんだっ!?」
「「ごちそうさま、カラ松兄さん!」」
「もーお前ら駅で騒ぐなよっ!…相変わらず、騒がしくてごめんね、なまえちゃん。」
呆れたようにチョロ松くんはため息をついていたけど、私は首を横に振る。松野家の、この明るい雰囲気が私はとても心地よい。長男であるおそ松くんはクソ政権のクソ独裁者だと他の兄弟にからかわれていて、でも、おそ松くんのその心の広さとか、温かさとか、優しさとか、全部全部詰まってる松野家が大好きなの。
ほら行こう!って自然と繋がれた手。今日も長男に引っ張られて、私は彼の背中を見つめた。
「……楽しかったねっ!」
「んーでも、俺は早く2人きりになりたかったけどなー」
手は繋いだまま、口を尖らせる君は、私よりも身体は大きいのにやっぱり子供みたい。
だってさ、一緒に暮らすための引っ越しの話とか、これからのこととか、たくさん話さなきゃいけないことあるじゃーん!って君は笑う。
私が大学を卒業したら一緒に暮らそうって約束を彼はちゃんと果たそうとしてくれてる。
「ついに、明後日だね。」
「まあなまえちゃんの家に泊まるから実質は今日からだけどねー…ていうかさ、」
そこでおそ松くんの言葉は止まった。おそ松くんの顔を見上げると、彼は真剣な眼差しでまっすぐ前を見つめていて、それから、私と目線を合わせて、薄く微笑んだ。
「俺さ、確かにクソニートやってきたけどさー今のところでそれなりになれば、落ち着くと思うんだよね。」
突然振られた話題は、たぶんおそ松くんが3ヶ月ほど前に始めたアルバイトの話だと思う。知り合いの勧めで始めた仕事だけども、どうやら楽しんでやってるみたい。おそ松くんは真剣に仕事するより、フランクで自由な方が似合ってるし。
でも、意図が掴めずに、首を傾げる私の唇に、一つ、柔らかいものが重なる。
そのあとに、私の身体は彼の腕の中に包まれた。
「だからさー結婚しよっか!」
彼は今どんな表情をしているのだろうか。照れているのか、笑っているのか。抱きしめられている私にはわからない。けれども、彼の心臓は珍しくも速まっている。それは、この言葉の重さを感じさせてくれた。
「…………それ、嘘じゃないよね…?」
「もうさー信じてよ!!こんな大事なことで嘘はつかないって!」
でどうなの?って返事を促す彼に「一緒に暮らしたいけど、でも、結婚はなー」なんてわざと渋る私。
私のこと見下ろす彼は驚きを隠せない…そんな目をしていた。
「え、待って、この長男様のプロポーズ断るわけ?!なんで、どうして!?貯金全然ないところがだめ!?フリーターなのが嫌なの?それはこれからなんとかするし、てゆうか俺以上になまえちゃんのこと大事にできるやついないよ!?いいの?!」って、慌てて饒舌になる彼がとても可愛い。
「なーんて、嘘だよ!」
だって、たまには仕返しもしてあげないとね。私ばかり騙されていて、割に合わないと思うの。
はぁーと安堵のため息のあとに、「ふ、ふざけんな!心臓止まるかと思ったわ…!」と、おそ松くんは私の頭を、髪がどうなろうとお構いないし、ぐしゃぐしゃと撫でた。せっかくセットしたのに、でも、こんな時でも彼に撫でられると幸せなのは変わらない。
「…怒った?」
「結婚してくれるなら許すしっ!」
だから、結婚しようって、頬を赤らめて君はもう一度言った。
断る理由なんて、どこを探しても見つからないよ。おそ松くん以上に好きになれる人もいないよ。2人で暮らしていく上で、いろんな問題が起こるだろうけど、私達なら大丈夫だよね。
私は返事の代わりに、背伸びをして、おそ松くんにひとつキスを落とした。
いつまでもいつまでも、こうして、ふざけあって、笑いあって、支え合って、愛し合っていきたいと私は心から願う。
私たちの想い合う気持ちには、何一つ偽りはないの。
END.